認知症と自分史

先日、認知症サポーター養成講座を受け、認知症サポーターとなりました。認知症サポーターとはNPO法人「地域ケア政策ネットワーク全国キャラバンメイト連絡協議会」が実施する「認知症サポーターキャラバン事業」における認知症サポーター養成講座を受講・修了した者を称する名称のことです。現在認知症サポーターは全国に約540万人おり、地域において認知症の方が穏やかに生活するための見守りや環境整備を行う役割を担っています。

認知症サポーターになったからといって、何か特別なことをしなければならないということはありません。サポーターは認知症を正しく理解し、認知症の人や、その人を取り巻く家族の良き理解者たりうる存在です。サポーター各自ができる範囲での活動でも構いません。職業柄たくさんの人々と接する機会の多いサービス業の方でも、仕事の途中、認知症で困っている人や家族を目にすることがあるかもしれません。そんなときに「何かお困りですか?」と声を掛けてくださるだけでも家族は救われた思いがするそうです。

認知症と自分史の関係においては以前このブログでも取り上げています。その中では自分史を作る過程が脳を活性化し、認知症予防に役立つといった、治療の一環としての役割があることを書いています。

今回は認知症サポーター養成講座において、また違った観点から自分史活用に関することを学びましたのでご紹介したいと思います。

今後65歳以上の5人に1人が認知症になると言われている社会においては、もう認知症を予防しようというよりも、認知症になる前提での社会づくりを考えるべきです。自分も含め将来認知症となったときに、その存在を受け入れるためには、認知症を正しく理解し、病気というよりも人間としての定めと考えることが必要でしょう。そんな考え方を推進するため認知症の行動には原因があり、それはライフストーリー(ご本人の生きてきた歴史)が関係していることがあるというお話をお聞きしました。(ライフストーリー=つまりこれが自分史です。)

たとえば、認知症の特徴的な行動として徘徊がありますが、最も徘徊が起こる時間帯は何時頃かわかりますか? 多くの方の答えが『夕方』に対して、正解は『朝方』ということだそうです。これは認知症の方々が朝お仕事に行くつもりで徘徊をしているのだそうです。また、いつも買い物で『油揚げ』を何個も何個も買ってきて冷蔵庫にしまい込むおばあちゃんの行動には、子育て真っ最中のとき、自慢の息子の運動会にたくさんのいなりずしを作って皆で食べた、過去の自分にとって一番幸せな時代が影響していることがわかったそうです。

認知症は脳の病気ですから、脳から指令が行かなくなり、徐々にその範囲が広がり、最後には心臓を動かす指令も行きわたらず心臓を止め、命を落としてしまうことになります。今まで私たちの人生をグラフで描くと、生まれてから徐々に右方向に大きな山を登り、ある程度の年齢になるとその山を下り、最後は最も右のところで低くなり、人生を終えると考えられてきましたが、脳や精神の中では一番右側に来たところで同じ曲線を左に上り、最後には子どもに戻るような最期を迎えるのではないでしょうか。認知症の世界はまったく新しい世界ではなく、自分の生きてきたライフストーリーを逆にたどる旅であると考えると、その付き合い方も大きく変わってくるのではないでしょうか。

馬場敦(一般社団法人自分史活用推進協議会理事)

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