『自分史』の大切なもの

私が、開業以前からお付き合いのある地元町田の医療モール『薬師台メディカルTERRACE』で【認知症カフェ】という認知症に関する講演や情報交換会が開催され、先日参加をして来ました。私の地元町田市では、2015年12月より出張認知症カフェ(Dカフェ)を開催しています。Dカフェは、企画段階から認知症の当事者が参加し、「地域社会への貢献」「認知症の人が仲間を作れる場所」という理念の下、協力団体、テーマや場所を変えながら毎月実施しています。

この医療モールではカフェを併設しているのですが、先日はここに約50人位の方々が参加し大変盛り上がりました。カフェということでコーヒーやケーキを食べ、歌を唄ったりと楽しく気軽に過ごせるイベントなのですが、一番盛り上がったのは認知症当事者による自分の症状の発生から最近の生活などについての体験的なお話です。本人が話すというインパクトに加え、「この人ほんとに認知症?」と思えるほどしっかりとご自分を客観的にとらえ、冷静にお話する姿に会場の方すべてが聞き入っていました。

ここで発表してくれた方々は、認知症の診断を受けてから『町田市認知症と共に歩む本人会議』という会議に集まり、自分たちがどうやって認知症と向き合って行くのかを話し合っているそうです。認知症の症状として物忘れが代表的ですが、「自分が道に迷ってしまい帰り方を忘れてしまったらどうしよう?」なんて、日常の心配事などに対し同じ気持ちを持つ方々同士でアイデアを出し合うのが本人会議と呼ばれるとのこと。このような心配事に対して「私は認知症です。自宅の住所は○○です。」というカードを首からぶら下げておいてみたら? いやいやそんな事したら悪いことを考える人に悪用されてしまう……なんて具体的な話が本人の口からどんどん出てくる会議だということです。

この本人会議は、言ってみれば自分について考える会であり、もっと突っ込んで言えば、現状(認知症という現実)において今の自分(本人)がどうやって生きていくのかを、同じ環境の人たちと共に考える会議と言えます。ここでいう自分(本人)とは、まさに今現在の自分です。今の自分を受け入れることは、思っているよりつらいことかもしれません。でも過去ではなく現在の自分を中心に考えることは、結果自分を大切にすることなのです。

この自分(本人)を大切にする『本人会議』を、私たちが取り組んでいる『自分史』に対比させて考えてみましょう。『自分史』ということばの中で一番イメージされるのは『史(歴史)』という部分かもしれません。過去の功績や実績、挫折からの成功など、ほとんどの方は『自分史』と聞くと『史』(過去)という部分がメインだと思われるでしょう。しかし、この短いフレーズで最も大切なのは『自分』という言葉なのです。当たり前なのですが『自分』の抜けた『自分史』は存在しません。『今の自分と過去の自分の歴史』を縮めると『自分史』になります。『自分史』という言葉で大切な部分はまず『自分』です。今の自分を見つめることが『自分史』の出発点であり、『自分史』の中心なのです。そういう意味で『自分史』は歴史ではなく、自分を考える新しい取り組みといえます。

馬場敦(一般社団法人自分史活用推進協議会理事)

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