秋晴れの日に

一般社団法人自分史活用推進協議会理事 河出岩夫

2023年11月、澄みわたる秋晴れの日にお客様のもとへ自分史エッセイ『おもいで小鉢』をお届けしました。
ご依頼主は千葉県在住の久保田乃芙子さん。ご夫婦で事業を営む傍ら家庭菜園で季節ごとの野菜をつくり、それらを使った小鉢料理を友人知人に振る舞うような暮らしをされていました。ところがコロナ感染の拡大で、料理をもてなすこともままならず、悶々とした日々がつづきました。そうした中、間もなく迎える80歳の節目に、これまでの人生を振り返り、文章に残そうと考えついたそうです。

記念撮影(右から山川さん、、久保田さん、河出)

はじめに自分史づくりの相談に対応されたのは、千葉県在住の自分史活用アドバイザー、山川やえ子さんです。山川さんはカラーコーディネーターやシニアの介護サポートなどを専門分野としながら、自分史ワークショップなどの普及活動にも取り組まれています。
久保田さんの相談を受ける中で、やはり紙の書籍の形に残したいとのご希望があり、自分史相談のバトンを私につないでいただきました。
このようにそれぞれの専門分野を持つ自分史活用アドバイザー同士が、ご相談者のご希望に沿えるよう互いに連携し合うことは珍しくありません。

その後、久保田さんと打ち合わせを重ね、自分史の様態をエッセイ仕立てとしました。1篇あたり1000字から1500字程度。それぞれにタイトルをつけて、いつごろの出来事なのか分かるようにエッセイの終わりに年代を付記しました。こうして一番古い1944年(昭和19年)のエピソードから令和の現代までおよそ30篇ほどのエッセイを一冊にまとめました。
激動の戦後日本の中で、決して順風満帆とはいえない人生の道のりを、力強く生き抜いてきた一人の人間の足跡がこの自分史エッセイには込められています。
本のタイトルを『おもいで小鉢』としたのは、いろいろな思い出話を久保田さんが振る舞ってきた小鉢料理に見立てたものです。

そしてもうひとつ。久保田さんには親友との大切な約束を、この自分史づくりで果たしたいという思いがありました。以前からそのお友だちと「いつか一緒に本を書こう」と約束していたそうですが、お相手が認知症を発症してしまい、文章が書けなくなってしまったとのこと。せめて何かできないかと考え、親友が以前描いていた水彩画を本のカバーに使うことで、このエッセイを二人の合作ということにしたのです。

こうして1年がかりで取り組んだ自分史エッセイが無事に完成し、2023年11月の晴れた日に山川やえ子さんと一緒に本をお届けに伺うことができました。そこでご馳走になった久保田さんの小鉢料理が格別な味わいであったことはいうまでもありません。

小鉢料理とエッセイ