義父の「聞き書き」から得た、家族の絆を結び直す力
お正月、義母の誕生日のお祝いを兼ねて妻の実家へ帰省しました。今回の私の密かなミッションは、以前お渡ししていた「自分史の作り方」の資料について、義父がどのような反応を示すかを確認し、できればお話を聞かせてもらうことでした。
少しの緊張を抱えながら義父の部屋を訪ねると、彼は快く迎え入れてくれました。そして「実はこんなものがあるんだ」と、一冊の会報誌を見せてくれたのです。それは2021年に彼が勤め上げた会社のシニア会に寄せた、約2000文字の寄稿文でした。
そこには、戦時中の疎開先での生活が克明に記されていました。「4年も前に、自ら人生を振り返る作業をされていたのか」という驚きとともに、私はその原稿を道標にしながら、一時間の「聞き書き」の時間を過ごしました。
聞き書きからの気づき:語られなかったルーツ
お話を聞く中で、これまで知ることのなかった家族の物語が次々と溢れ出しました。特に印象的だったのは、義父が一番上の姉を深く尊敬していること、そしてそのお姉さんが語った「母の実家には感謝しなきゃいけない」という言葉でした。
疎開という困難な時代、支え合って生きた親族への深い感謝の念。それは義父の価値観の根底にあるものでした。「聞き書き」をしなければ、私は義父の表面的な優しさの背景にある、この「感謝の連鎖」に気づくことはなかったでしょう。自分史は単なる個人の記録ではなく、その人の人格を形作った「想いのバトン」を可視化するものなのだと改めて痛感しました。
受け手としての効能:関係性の質が変わる
今回、聞き手(受け手)として参加したことで、私自身にも大きな変化がありました。
一つは、「理解の解像度」が上がったことです。その晩、義父の話に出てきたキーワードを頼りに当時の様子をインターネットで検索してみました。個人的な物語が社会の歴史と重なり、義父という存在がより立体的に、誇らしく感じられました。
もう一つは、「沈黙」が心地よいものに変わったことです。翌朝、誘われてご一緒した喫茶店でのモーニング。これまでは何を話そうか気を使う場面もありましたが、お互いのルーツを共有した後は、静かな時間の中にも深い信頼と親愛の情が流れているのを感じました。
受け手が真摯に耳を傾けることは、語り手にとっては「自分の人生の肯定」になります。しかし同時に、受け手にとっても「自分の大切な人のルーツを知り、その存在をより深く愛おしむ」という、かけがえのないギフトを受け取る行為なのです。
結びに代えて 自分史づくりは、決して孤独な作業ではありません。 家族や身近な人の話を「聴く」ことから始まる自分史もあります。この冬、皆さんも身近な方の物語に耳を傾けてみませんか。そこにはきっと、これまでの関係性をより豊かにする「発見」と「感動」が待っているはずです。



