【シネマで振り返り 29】笑いと涙の師走のドタバタ音楽コメディー …… 「歓喜の歌」
自分史活用アドバイザー 桑島まさき
落語界の人気者、立川志の輔の“志の輔らくご”の中でも珠玉の名作とされる「歓喜の歌」を松岡錠司監督がメガホンをとった映画「歓喜の歌」(2008年2月公開)は、爆笑人情喜劇である。
時は、新しい年が目前に迫る年の瀬。誰もが年内にやらなければならないことに忙しく、新年を迎える準備で大忙し。場所は、ある小さな町の文化会館。やる気のなさそうな主任ほか数人が事務をとる部屋。もう少しで仕事納めという時、文化会館にかかってきた1本の電話によって職員と市民を巻きこむ一大事へと発展していく……。
2日間のお話である。根は悪くはないが「何でも適当」主義のみたま文化会館主任の飯塚(小林薫)は、今年、身からでた錆で市役所からこの地方の文化会館にとばされてきた。優柔不断でいい加減な無責任オヤジだ。
そんな飯塚がとった電話は、明日の大晦日に文化会館で開催するコンサートの確認をする内容だった。例のごとくやる気なしのいい加減男なので、適当にハイと答えたものの、実はよく似た名前のコーラスグループが同日同時刻にコンサートを開くことになっており、文化会館側の不注意でダブルブッキングというお粗末をしでかしてしまっていたのだ。文化会館の会場予約をしたのは金持ち系グループ「みたまレディースコーラス」と庶民派グループ「みたま町コーラスガールズ」。似ているとはいえ、全く別のコーラスサークルだ。
その事実を今頃知り驚愕する飯塚と部下の加藤(伊藤淳史)。それでも長年のお気楽さで都合よく考え、どうせ主婦の暇つぶしサークルだからすぐに解決すると安易に考えるのだが、両者とも一歩も譲らず、大晦日は絶対に自分たちが予定どおりコンサートをやると主張して折り合いがつかない。
両者の間を行き来し交渉に疲労困憊する飯塚。その上、彼はプライベートでは家族崩壊の危機、飲み屋の外国人女性にいれあげた挙げ句たまった勘定を急ぎ工面しなければならず、右往左往している。
果たして飯塚はこのピンチを乗り切ることができるのか?
コーラスグループは大晦日に「歓喜の歌」を響かせることができるのか?
文化会館スタッフは無事、町の一大事を解決することができるのか?
飯塚という男のドジさ加減は、実はありがちなミスだけに不気味で笑える。被害者側の両コーラスグループの困惑ぶりもよくわかるし、忙しい時間の合間をやりくりして情熱を燃やしているだけにそのパワーがいかほどのものかもよく理解できる。フツーの人々が暮らす地方の小さな町の、日常で起こるちょっとした事件(だが、彼女たちにとっては大事件)を題材にしたドタバタ人間模様を描いた原作者と監督に心から拍手を贈りたい!
主婦たちの情熱は、人生に疲れ仕事も適当にこなしてきた事なかれ主義の中年男を確かに変え、一緒になって夢のコンサートを成功させようとがんばる姿は好感が持てる。対立していた両サークルも音楽を愛するという点で次第に共感しあい、合同コンサートへと結実する。そのシークエンスの見事さ! 一致団結ぶりの爽やかさ、彼女たちを応援する周囲の人々もまた感化され、全てが丸く収まっていくストーリー展開のすがすがしさといったらない。
作品のメインとなる音楽は、出演者が猛特訓をうけたせいで文句ナシ。エンディングテーマに使用された和田アキ子が歌いヒットした昭和の名曲「あの鐘を鳴らすのはあなた」をクレイジーケンバンドが味わい深く歌っている。
おまけのように原作者やその師匠である故・立川談志師匠も出演しているのも嬉しい。公開時期が師走でなかったのが残念だが、猛暑の中、師走のドタバタ模様をリアルに演じた役者たちのご苦労を思い、良しとしたい。
災い転じて福となる! 飯塚の奮闘に神様が大晦日に与えたご褒美。人は誠意をもってあたれば出来ないことなどない!ということを教えてくれるではないか。
良いお年をお迎えください!
*「歓喜の歌」(2008年2月2日 日本公開)
歓喜の歌 : 作品情報 - 映画.com