ときめきの自分史―今なぜ自分史は注目されるのか

一般社団法人自分史活用推進協議会理事 河野初江

自分史とは個人の歴史のことで、つくり方や表現も自由なものです。1975年(昭和50年)に歴史学者の色川大吉氏が戦前戦後の歩みを振り返り、「庶民こそ自分の歴史を語るべきである」(『ある昭和史―自分史の試み』)と述べたことから、普通の人の歴史として「自分史」という言葉が使われるようになりました。

今なぜ注目されるようになってきたかと言えば、長寿の時代を迎え、過去を振り返ることで自分がどのような選択をしてきたかということを見つめ、これからどうあろうとしているのかを考えたいと思う人が増えてきたからです。

人生は選択の連続です。長生きをするようになった私たちは、転職をしたり、新しいビジネスに挑戦したり、新天地を求めて移動するなど、ますますマルチな生き方へとシフトしていきます。同時に選択を迫られる機会が増えていくことでしょう。そんな時、何を基準に判断をすればよいでしょうか。

自分史で自分を知りたいと思う人が増えている

誰しも未来を知りたいと思うものですが、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏は、スタンフォード大学で行った伝説のスピーチで、「未来のことを知ろうとしても誰にもわからない。僕たちにできることは過去を振り返って点と点をつなげてみることなんだ」と言っています。過去を振り返り、点と点をつなげてみることで、一つひとつの出来事に意味があったと気づくことができるというのです。逆に言えば、それしか未来を知る方法はないと言ってもいいかもしれません。

長生きをするようになった私たちは、ひとつの学校やひとつの会社の縁だけにとどまらず、転職をしたり、新しい学びの場を得たり、組織を離れて道を切り拓いたり…と活動の領域が広がっていきます。そのようなとき、自分史をつくり、自分のことをよく知っていれば、相手にもわかりやすく自分のことを伝えることができ、信頼関係を築くことができるようになります。

自分史には、もうひとつ見逃せない効用があります。それは脳を活性化させることができる、ということです。自分史をつくる過程で私たちは人生の出来事を回顧したり、整理したり、表現したり……と思考の領域から感情の領域まで広い範囲の脳を使います。

アメリカのジェロントロジー学(老年学)の権威、ジーン・D・コーエン博士は著書『いくつになっても脳は若返る』(ダイヤモンド社)で、これが非常に脳を元気にすると言っています。人生の後半期で自伝を書きたくなるのは、「脳自体が脳の多くの場所を使うことを楽しんでいるからだ」とまで言っています。

自分史にはこのように多くの効用があり、今の私たちに無くてはならないものになってきている、だからこんなにも注目されているのですね。