お寺と自分史
先日、お客様の依頼で大阪に行ってきました。これは行政書士の仕事で、大阪にあるお墓の遺骨を東京まで移送する改葬といわれるものに関する手続きのためです。
お客様は以前大阪に暮らしていた方ですが、10年位前から娘さん夫婦のいる東京で暮らすようになりました。ご主人も亡くなり、ご自分もご高齢ということで、誰もお参りにいけない大阪のお墓を東京に移すことに決めたようです。
お墓の改葬は単なる物の移動ではなく、様々な手続きが必要です。その中でも最もデリケートな部分としてお寺のご住職との交渉があります。
現在は希薄になりつつありますが、数十年前までお寺と地域住民との結びつきは大変強いものがありました。今は初詣やお墓詣りで年に数回しか行かない方も多いかと思いますが、お寺は本来地域における教育や福祉、文化の拠点としての役割を担っていました。江戸時代に生まれた「檀家制度」と呼ばれる仕組みによって、お寺は行政機関の権限をも担うようになり、お寺と地域住民の生活は強く結びつくようになりました。
そのお寺で管理していたものとして過去帳があります。過去帳(かこちょう)とは、仏具の1つで、故人の戒名(法号・法名)・俗名・死亡年月日・享年(行年)などを記しておく帳簿です。鎌倉時代から続くといわれています。
この過去帳は、各家の累代の記録が記述された個人情報のデータベースとも言えます。お寺によっては死因や身分、生前の事跡などが詳細に記述されている場合もあり、まさに自分史やエンディングノートと同じ役割があったのではないでしょうか。
檀家制度がなくなりつつある現代では、この過去帳の存在も薄れつつあります。しかし、今回大阪のお寺に訪問して気付いたことは、ただ単に手続きとしての機能ではなく、本当に住民とのつながりが強かったということです。ご住職がよくいろいろなことを覚えていらっしゃり、私のお客様のこと、そのお子様やご家族のことなど、まるでご自分のご家族のように話されました。
自分の過去をたどるために家系図を作られることがあるかと思います。家系図は役所にある戸籍謄本をたどることで作ることができますが、それでも戸籍制度の始まった明治初期位までしかさかのぼることはできません。菩提寺のある方はそれ以前をたどるためにも、また、記録にはない思い出のお話を聞くためにも、お寺に行ってみることをお勧めします。