編集者の素質

おのやすなり(自分史活用アドバイザー)

作家村上龍のミリオンセラー「13歳のハローワーク」は513種類の職業をエッセイとしてまとめたものです。

このミリオンセラーを村上龍氏とともに企画し世に出した編集者で、現在幻冬舎の最高編集責任者である石原正康氏が、作家と編集者の関係について語っています。

自分史活用アドバイザーの仕事は編集者としての側面もあるので非常に参考になりました。

編集者は優秀な戦略家であることが大事

世の中にはいろいろな仕事がある、それは小説のネタにもなる。

最初の発想はここから始まったそうです。

ならばならば職業図鑑を作ろう!

図鑑という限り、社会知識のない13歳くらいの人間がまだその年齢では見えてこない(実際に成人していてもですが)、様々ある職業が一体どういったものなのかを、客観的な視点で捉えた作品作りに取り組む必要がある。

今までにない作品であり、しかもそれを売れっ子作家が執筆する。

読む本ではなく見る(調べる)本を村上龍が著すという冒険を企てます。

この作品は、興味を持った子供のみならず、親から子へのプレゼント、警察官から不良少年に推薦本、 学校教育関係者のバイブル、図書館関連の蔵書、図鑑であるがために流通の幅が大きく広がり大ベストセラーとなります。

数年後に「55歳のハローライフ」は、先の成功に慣い、シルバーエイジ手前再就職図鑑として、再び村上龍氏に企画を持ち込みますが、こちらはこの年代からの職業があまりにも少なく、現実の厳しさを目の当たりにして同じ企画を断念し、定年を前にした人々の悩みや生き方を短編小説に変更したそうです。

新聞連載は珍しい村上氏の作品として、数社の地方紙の連載という形で取り上げてもらい、そこからヒットしてゆきます。

全国紙ではなく、地域地域で圧倒的な強みを持つ地方紙の方がターゲットである読者の層を掴みやすいと考えての戦術で、これが見事に当った形となり、NHKの連続ドラマにもなりました。

編集者は作家の書く作品をただ待つのではなく、様々な企てを行い一緒になって作品を作り上げるパートナーなのです。

編集者は作家との恋愛関係になれるかが大事

締め切りを守らない作家にやきもきしながら、なだめたり、すかしたり。編集者とはそんなイメージだけが先行しますが、優秀な編集者は、作家と恋愛関係にあるくらいの心の距離感を保てる人でないとならないそうです。

作品は作家が書きますが、夫婦で事業を成し遂げる、作品を創る人、それを出版する人という関係を飛び越え、「お前のために書く」と言うくらいの関係にならなければ良い作品を取るこ編集者には慣れないそうです。

プロデューサーとしては作家が何を考え、どういった思考状態になっているのか、まさに一心同体となるくらいに相手に惚れ込む必要があるそうです。

相手のことを考えて、考えて、考え尽くす、どこで悲しみ、どこで喜び、どこで傷つくのかがわかるくらい距離を縮めるということでしょう。

担当の作家は一人とは限りません、多くの売れっ子作家や作品を世に出す優秀な編集者に求められる人間力は相当なものなのです。

優秀な編集者に共通する3つの事柄

①愛嬌がなければ絶対に無理

石原氏曰く、編集者の絶対条件は1に愛嬌、2に愛嬌、何がなくともまず愛嬌と言い切っています。

作家と恋人関係の距離とはいえ、それはあくまでも例えであるが、距離が近くなればなるほど見えなくても良い部分まで見える部分が多くなり、許せることとそうでないことも生じる訳で、そういった時にでも”まあいいか”と思わせる可愛気がなくては務まらないというのはうなずける話です。

編集者に限ったことではないですが、利害関係や認める、認めない以前に”憎めない人間味”が必須であり、平たく言えば、モテる人でないといけないということだろうと思います。

駆け出しの頃、締め切りを守らない大作家(宮本輝氏)が、締め切り間近に自分がオーナーである馬が死んだのでとてもペンを取る気にならない……と言い訳を言ってきたそうです。

”馬が死んでも先生のペンは走るでしょ! ”
と言い返したところ、ニヤリと笑って執筆に取り掛かってもらったというエピソードを話しておられましたが。

新人でありながら、このニヤリとさせるような関係を築けたこと。これ以来担当者として大いに気に入ってもらえたそうで、この愛嬌が大事なことなんだろうなと思います。

②感想をはっきりと述べること

はっきりとした意見を述べられることは、相手のことを真剣に考えるからこそできることであり、愛嬌があるからこそ許されることでもはあると思います。

これが許される関係性ができなければお互いが成長できないし、良い仕事もできないのでしょう。

担当の作家が作った作品は全て自分が書いたような思いになるのだそうで、そこまでとことん惚れ込むことができるからこそ信頼される。遠慮があるような関係を超えてこそだということもポイントだそうです。

③敵わないと思わせるくらい何かにのめり込むこと

人間的な魅力を磨くために大切なことは、何でも良いから一つのことに寝食を忘れるくらい打ち込める事がある人、あるいはそういった事ができる人だと言います。

そして、それを極めるということは、誰にも叶わないような事が少なくとも一つはあるということです。

知識と空想力に富んだ作家が敵わないと思うようなことが何か一つでもあれば、認めてもらえるきっかけになると言います。

3つの条件はどれも、人間的に魅力がある人であれということに尽きるかもしれません。誰にでも、という訳ではありませんが、相当モテる要素がなければならないようですね!

編集者とは人間を相手にした商売です。しかも相手は作家という観察力や洞察力に長けた強者ですから当然といえば当然ですね。

市井の一人の人生を企画する自分史の編集者には勉強になる話でした。

自分史ラボ:my life my art

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