「バベルの塔」とレンガ職人と今の自分

おのやすなり(自分史活用アドバイザー)

国立国際美術館で開催されているブリューゲル「バベルの塔」展を鑑賞してきました。

旧約聖書を知らなくても、「バベルの塔」のことは名前くらいは知っているという人は多いと思います。40代以降の方は「バビル2世」というマンガでその存在を焼き付けた方も多いのではないでしょうか。

バベルの塔の物語

旧約聖書に登場する巨大な建物バベルの塔に関しては様々な解釈があります。

人類が神に対抗して天まで届く塔を建築した神への冒涜であり、神は怒り塔を破壊した。

更に人類が連携して建物を立てることができないよう地上に落とした人類から共通の言葉を奪い、世界中に散らばった人類は異なった言語を話すようになった。

これは技術革新や自然破壊に対する人類の奢りを戒めを表した解釈であると言われています。

一方で、バラバラになった言語・民族・宗教・思想・文明・文化・経済・通貨・国家・人種・身分・性別・家族・人間の自他の意識などを統一する人類の課題への挑戦との解釈。

バベルの塔を建設するために人類が必要とする共通した正しい信仰を示唆したものです。

バベルの塔の中に描かれる様々な人々

バベルの塔は様々な画家によって描かれていますが、ブリューゲルの描くバベルの塔には米粒大の数々の人たちがバベルの塔の内外に描かれていることが大きな特徴です。

あまりに小さいので、美術館で鑑賞してもそれを見つけてその表情を識別するには苦労しますが、この絵の中には1400人もの人物が描かれていると言われています。

上の図はブリューゲルのバベルの塔の一部を拡大したものですが、こんな風に様々な人が描かれています。この部分では建築を進める中で上に運んだ石灰がこぼれて真っ白になりながらも協力して建築を進める人たちが描かれており、細部にストーリーが隠されています。

3人のレンガ職人の話

人混みをかき分けてやっとの事、最前列でこの壮大な絵を見ながら私はイソップ物語の3人のレンガ職人の話を思い出しました。

ある旅人が教会の建設現場でレンガを積んでいる3人の工員との会話の話です。

一人目の職人に、君はここで何をしているのかと尋ねると

「見ればわかるだろ、朝から晩までレンガを積みでこき使われているんだ、世の中にはもっとうまく生きている奴がいるのに辛い思いの毎日だよ」

二人目の職人は

「生活のために働いているのさ、なんやかんやでこの仕事をしているおかげで家族を食わすことができるんだ」

三人目の職人は

「世界的に有名で、後世に残る偉大な建築物の礎を作っているんだ。完成まで100年はかかると言われているし完成した教会を僕は見ることはないけど僕の積んだレンガはいつまでもここでに残るんだ」

人間の目的意識の違いと生き方の例としてあまりにも有名なあの話です。

ブリューゲルが描くこの空想画の細部にはそういった人たちの営みが描かれており、大きく見た全体像の中に隠された様々な人間像にとてつもない魅力を感じました。

ブリューゲルとレンガ職人と今の自分

今回日本で公開されたブリューゲルのバベルの塔は今から450年ほど前に描かれています。

日本でいえば、今川氏が滅び信長が上洛した頃の話です。

3つのバベルの塔を描き、それ以外に彼が残した他の作品は生涯で40点ほどだと言われています。

オランダ人が描いたこの偉大な絵になぜ多くの人が魅了されるのか? かくいう私も昨日まではブリューゲルさんの「ブ」の字も知りませんでした。

人混み掻き分けこの絵の前に立って、まじまじと眺めていると感じることがあります。

ブリューゲルさんも三人目のレンガ職人なんだなということです。

彼の描くバベルの塔という世界の中で、彼自身も米粒大の一人の人間でしかないということを表現したかったのではないでしょうか。

自分の描く絵は世界の中の一つのレンガにすぎない、そう思いながら一つ一つのレンガを積み上げて1枚の大作を仕上げたのです。

彼の思惑通り、それは450年後の日本で、彷徨える一人の中年男のレンガ職員の心に感じるものを与えてくれました。

自分史ラボ:my life my art

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