【シネマで振り返り 37】現在を生きる者たちの熱いハートの証 ……… 「燃ゆるとき」
自分史活用アドバイザー 桑島まさき
冬季オリンピック史上最多のメダル獲得を成し遂げた平昌オリンピックが終わり、選手の数だけドラマがあることを知り、感動の余韻がいまだ続いている。
さて、今回ご紹介する「燃ゆるとき」は、経済小説の名手・高杉良の原作小説「ザ エクセレント カンパニー/新・燃ゆるとき」「燃ゆるとき」を元にした映画化(監督は「シャブ極道」の細野辰興)である。2006年2月、第20回冬季(トリノ)オリンピック開催中に公開された作品だ。ちなみにこの大会では金メダル1個のみの残念な結果だった。
本作では、好景気に沸いた時代の日本経済を支えてきた企業戦士たちの命がけの戦い、連携して日本の技術や経済の発展に貢献していた時代の男たち(勿論、女もだが)の熱い生き方が描かれている。原作小説が「ザ エクセレント カンパニー…」とあるように、個人の生き様よりも、会社という組織の在り方に重点がおかれ、組織の一人が困難に遭遇した時に全体としてどう解決するべきか、人を大切にする優良企業とは? についての問いを投げかける。
東京築地から出発し、小さいながらも即席麺やカップ麺で日本市場を独占してきた〈東輝食品〉は瞬く間に大企業にのしあがり、ついにはカップ麺でアメリカ大陸を制覇するという野望に燃えていた。しかし、戦況は芳しくなく、現地法人〈サンサン・インク〉の社長の深井(鹿賀丈史)は、資材担当の営業マン・川森(中井貴一)を日本から呼び寄せる。という訳で舞台は日本からアメリカへ。
カリフォルニア州にある工場の現地労働者はメキシコなどの貧しい移民ばかりで、自宅に電話がないほど困窮した生活を送っている者が多い。言葉の壁はさることながら、着任早々コストカットのために従業員を一時的にリストラしなければならなくなり、重い雰囲気の中で従業員の士気は下がる。慣れない土地での生活に加え、営業や経理部門の社内の人間とも意見があわず川森の苦難は続く……。
しかし、彼は負けない。従来とは違うアミーゴ油を使用して、安く旨く新鮮な商品を作るために現地の精油会社の社長マルケスの行きつけのバーを川森の部下で仕事熱心なキャサリンをつれて訪ね、食い下がり商談を成立させる。敵を知るにはまず酒で互いを知ることから、飲めない酒を煽り、プロジェクトのすばらしさを訴えるのだった。言葉なんて思いが強ければ何とか通じるもの。そう、かつての日本の企業戦士たちはこうやって日本を経済大国にしてきたのだ!
かくして川森のアイディアは採用され新製品「チキン&レモンフレーバー」が完成し、注文も増え、レイオフした従業員を復帰させることもでき万々歳なのだが、苦難は続く。着任以来頼りきっていたキャサリンに事実無根のセクハラで訴えられ、会社の名誉を守るため川森は日本へ戻されることになる。会社と個人を守るため深井や社長(津川雅彦)がとった態度は浪花節的ではあるが、良いか悪いかは別として、かつて日本にはこんな潤いのある会社が多かったような気がするのだが……。
ともあれ、退職願をだす川森、それを突っ返す社長。言葉少なに信頼関係ができあがるシーンはジワリとハートに響くではないか。そして、川森は日本に落ち着いていたのだが、再び名誉回復の機会が訪れる……。
組織に守られ、家族に守られ、信じてくれた人に恩を返すために、確かな信頼と絆があったことを信じて、言葉の通じない異国の同志に直球で訴える川森。少しでも安く愛する会社のカップ麺を異国のスーパーにおくためにだけ男たちは必死でかけずり回っているのではない。それは、生きている熱いハートの証であり、共に働く者たちへの信頼と忠義であり、人と人との絆のためだ。
日本人の感性に訴え、情感を刺激し泣かせる古風な作品だ。ホントに懐かしく思える。
*「燃ゆるとき」(2006年2月11日 劇場公開)
燃ゆるとき : 作品情報 - 映画.com