戦争体験と自分史

自分史の役割のなかで史実の伝承という観点は重要です。特に『戦争』という現代から見ると、特殊な経験に関する伝承はもう二度と悲劇を繰り返さないためにも必要であり、自分史にはそれを実現するという大きな役割があると思います。

私も小さい頃祖父や祖母から戦時中の話を何度か聞きました。歴史で伝えられる戦争とは違い、一般市民の日常の生活に戦争がどのように影響しているのか、またそのときの気持ちなど経験したものでないと語られない生々しい話だったように記憶しています。そして戦争というと、それまで毎日が暗黒の日々だという印象でしたが、当時の生活の話を聞き、そんな状況でも楽しみや希望があるという人間の強さも感じることができました。とにかく心に響いたのは、経験した本人が自分の言葉で語ったということだったと思います。

戦時中子どもだった父からは、戦後の日本の復興について聞かされました。生きていれば78歳の父でしたので、自分の人生を語ることで一般庶民の戦後の歩みと重なります。

本来史実として語るには、裏付けとなる膨大な資料が必要になりますが、自分史であれば自分の記憶のみです。それが正しいかどうかはわかりませんが、家族が経験したことで歴史と自分の繋がりを強く感じることができます。つまり、教科書に書いてあることが他人事ではなくなるのです。

歴史の中で事実の伝承は歴史研究家に任せるとして、人間としての感情の伝承は経験された方が自分史という形で残すことが可能ではありますが、人間の命が有限である限り文字や映像で遺すしか方法はなくなります。

今本当に戦争の体験をしている方が70歳代の後半以降となってきています。当たり前のことですが、いつかは戦争体験者がいなくなります。語りたくないことも数多くあることだとは思いますが、自分史を書く意味として戦争体験を語ることは極めて重要です。書き残す方は自分だけの歴史に留まらないその意味を十分の理解していただき、またそれを受け継ぐ方もその想いに応えるべく大切に伝承していくことを守らなければならないかと思います。

今日のテーマはかなり重いものになりましたが、自分史は自由でありながらも単に自分のため、家族のためだけではなく、大げさに言えば人類のために、やはり残すべきものであると思っていただきたいと思います。

馬場敦(一般社団法人自分史活用推進協議会理事)