【シネマで振り返り 17】青春の光と影を見つづけた学校犬 ……「さよなら、クロ」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

ライフヒストリー上、忘れられない存在となるのは人だけではない。転機となった場所、動物(またはペット)、愛用していた車や万年筆などのモノもそうだ。ペットに関しては、家族の一員でもあるので思い入れは深く家族史からは外せないものだ。

長野県松本市の名門高、松本深志高校に1961年から数年間、クロという犬がいた。校内を住居とし、時折教室内を散歩し授業参観や職員会議にも出席したことのある名物ワンちゃんだ。当時この学校で教えていた藤岡改造さんは「職員会議に出た犬・クロ」という題名で本を出版された。マッ黒な小型犬クロは、マスコミに取り上げられたことがあるばかりか教職員名簿にも載った学校犬だ。2003年7月に公開された「さよなら、クロ」は、その原作の映画化である。
クロはある日、優しい飼い主一家が引っ越し、突然捨てられた。事情がわからず空家となった飼い主の家でいつまでも主人を待つクロの後姿がアップで映し出されたり、主人の女の子がつけていた鈴の音に敏感に反応したり、泣かせるシーンが随所にちりばめられていて胸が締めつけられる。

物語は、クロがこの学校の住人(犬)となった当時在籍していた亮介(妻夫木聡)と彼の親友である孝二(新井浩文)、2人のマドンナ的存在だった雪子(伊藤歩)を中心に進んでいく。
亮介も孝二も青春真っ只中、頭の中は勉強より女。2人は共に雪子が好きだが親友だけになかなか恋の告白などできず3人仲良くつきあっていた。ある日、孝二は雪子と映画を観にいった帰り、思い切って告白するが雪子にその気がないことを知る。その帰り道、バイクに乗った孝二は交通事故に遭いあっけなく死んでしまう。雪子は、自分が孝二を動揺させてしまったのだと自分を責め、誰もいない教室から飛び降りて死のうとする。そこへクロが入ってきて……クロに助けられ(勿論、クロは何もしないが)十字架を背負って生きる辛さを引き受ける決意をしたのだった。

クロは12年間その学校に住み着き、数えきれないほど多くの青い時代の生徒たちの織り成す青春群像を見てきた。恐らく教師が見ていないことも多く見てきたことだろう。青春期は未熟なため、思わず友人を傷つけたり、荒れて殴り合いのケンカをしたりする。

高校卒業して10年後。28歳になり都会で獣医として働いていた亮介は、友人の結婚式で帰省し雪子と再会する。懐かしい母校を訪れた時、クロの健康状態が悪いことを発見する。手術をしないと危ないが、手術費はどうするか。クロに助けられた生徒たちは募金箱をつくるなどの活動をしてクロ救済に乗り出すのだが……。

手術は成功したが数ヶ月後、クロは多くの人たちに見守られ息を引き取った(学校葬までしてもらえた!)。
青春を共に歩んだ同士(=クロ)の死によって亮介はフッきれたように雪子に告白をする。ようやく青春と<決別>をした2人は、<永遠の出口>へ向かって共に生きる約束をするのだった。恋人たちを見守るように「青春の影」が流れる。
♪君の心へ続く永い一本道は ~いつも僕を勇気づけた~♪
フォークソング全盛時の1974年、人気グループ、チューリップの財津和夫さんが独特の声で歌った楽曲だ。

同時代を生きた松岡監督にとっても青春のバイブルとなった楽曲だろうが、甘酸っぱい感傷に惑わされることなく<青春>を撮り、この曲がヒットした時代へオマージュを捧げている。クロは幸福だったことだろう!

※ 「さよなら、クロ」(2003年7月5日公開)
さよなら、クロ : 作品情報 - 映画.com

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