【シネマで振り返り 62】真実の愛はきっと報われる、哀しくも切ない幸福な悲恋 …… 「ラブストーリー」
自分史活用アドバイザー 桑島まさき
2003年は、同年放送された韓国ドラマ「冬のソナタ」が火つけ役となり、日本では韓流ブームが巻き起こり「純愛」が話題を集めた。主演男優が日本にやってくると空港は大混雑、あちこちで「ヨン様~~!」コールが響くニュースが報道されていた。
「冬ソナ」の脚本家は、日本の伝説的スター・山口百恵と三浦友和が共演したTVドラマ「赤いシリーズ」の大ファンだったこともあり、その影響は作品に強く反映されていた。相思相愛の美男美女のカップルの前に立ちはだかる数々の障害――病気、死の恐怖、出生の秘密、錯綜する人間関係――ここれでもかー!とばかりに観客をウルウルかつハラハラさせるメロディアスな要素がてんこもり。「冬ソナ」と同時期に製作された韓国メロドラマは多少の差異こそあれ、ほとんど同じ作りになっていた。
2004年1月に日本公開された韓国映画「ラブストーリー」は母娘二代に渡る愛の奇跡の物語だ。母・ジュヒの少女時代の1968年、娘・ジヘの生きる現在、2003年。主演のソン・イェジンが二役を演じている。
大学生のジヘは、お調子者でイイ男をゲットすることに躍起になっている友人から彼女の憧れの先輩へのeメール代筆を頼まれている。実は、ジヘもこの先輩に密かな恋心を覚えているがシャイな性格のため言い出せない。父は他界し、母が旅行中のため一人の家で悶々としている。
そんな時、棚の奥深くしまってある母の宝物を見つける。そこには、母が35年前に書いたと思われる日記帳と手紙の束があり、普段の母からは窺い知れない切ない恋心や実らなかった恋の顛末が記されていた。物語は母の恋(=過去)と娘の恋(=現在)が交錯して進んでいく……。
1968年、韓国は軍事政権化にあり、強い排日感情が国民の間にはびこっていた。母、ジュヒが思春期を送ったのはそんな世代だ。
ジュヒと相思相愛のジュナ(チョ・スンウ)は男子高の生徒。この学校の軍国主義教育といったらない。悪さをすると校庭で尻叩きの罰が与えられ、教師は絶対的に畏怖すべき存在、無論両親の権威にしても然り。それでも学生たちは、男子高にありがちなバカ騒ぎをして鬱憤を晴らしていた。
ジュナは親友のテスの依頼で、親の決めた婚約者への手紙の代筆を頼まれている。その婚約者の写真をみせられたジュナは仰天する。彼女こそ、夏のひと時、忘れられない時間を共有し一瞬にして恋に落ちたジュヒだったからだ。
親友につきそってジュナはジュヒと再会する。2人は同じ思いを胸に秘めたまま再会を喜び、テスに打ち明けられないまま秘密の時間を過ごす。想いが強くなるにつれ親友との三角関係に悩み悲劇的な決断を強いられるのだった。この決断が、心優しい3人のそれぞれの運命を決定していくのだが。だから母役を演じるイェジンはずっと泣いてばかりいる。
現在と過去を繋ぐ言葉やメッセージや手紙。それは終盤、娘のジヘが意中の男と母の故郷の川辺でキスを交わし、母の悲恋を話し終えた後、男の目からポロポロと流れる涙や首にかけられていたペンダントによって、時をこえた真相が明らかになる奇跡的な偶然をもって完結する。
そう考えるとジヘが母の手紙を見つけたのもただならぬ力=奇跡が作動したと思えなくもない。突然の尋常ならぬ風……。親友を思うあまり身をひき、この世で結ばれなかった女の形見を死ぬまで守り、最後まで愛する女を思ってカッコつけたジュナという男の真摯な愛の力だと思えないだろうか。その想いが時をこえて自分の分身に受け継がれ力をかす偉大なる愛の力を……。
母と違い娘は恋に悩んでも泣いたりはしない。テコンドー歴10年の体育会系のキュートなガッツのある娘だ。こういう点は30年という時の隔たりに恋愛観に対する意識の変容を感じる。身体的な結びつきはなくても命をかけた恋は精神的に深く結びつき、その結晶は時をこえて結実する。真実の愛の力を強く感じた。命がけの恋は、自分史上、最大の事件かもしれない。
※「ラブストーリー」(2004年1月24日 日本公開)
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