思い出さない自分史

一般社団法人自分史活用推進協議会理事 菖蒲 亨

昔のことを思い出す方法を知りたいと考える方が多いようです。

当協議会の自分史コラム群の中でも、2017年に上げられた「昔のことの思い出し方」というタイトルのコラムの月間ビューが、7年ほど経過した今なお、毎月トップクラスにランクインされ続けています。

やっかみ満載で書かせていただきますと、こと自分史を書くという行為に限って言えば、思い出さなければ思い出せないことは、思い出さなくていいのではないでしょうか。思い出そうとすることで脳が活性化するなどの効果は見込まれているところですが、少なくとも、現在の自分にとっては必要・重要でないから思い出せないのだと私は思うのです。もちろん、自分史に取り組むことを機会に思い出せたとするならば、これからのご自身にとって重要なことになっていくのかもしれません。しかしせっかく忘れてしまっているあれやこれやを思い出すのではなく、今なお頭にこびりついているあれこれの真実を見つけ出し、確認し、分析し、今後につなげたほうが、役に立つのではないでしょうか。忘れている彼氏彼女のことを思い出すのではなく、忘れられないでいる彼氏彼女との間でなにがあったのか。当時は見えなかったことに気がつくかもしれません。それを誰に、どのように伝えたいのか。あるいは手放したいのか。それを考えたほうがよっぽど、将来のためではないでしょうか。

自分史自体、なにも年代順に、年表どおり、出来事をもらさず書き進める必要など、ありません。誰のために書くのかを見失わないことのほうが、よっぽど重要です。自分や家族、そして周りのひとびと、読者の皆さんが元気になることのほうが、とても大切です。そういった方々を元気にすることに目標を置く、そしてその目標にあった事件、出来事などを選び出して書き進めることを私はおすすめします。それが思いつかなければ、それこそまだ、自分史を書く時期は訪れていないのです。思い出さなくてもそういったことが頭につぎつぎ浮かぶ、そういう時間を私は過ごしたいと考えています。

繰り返しになりますが、思い出さなければ思い出せないことを思い出すのではなく、頭にこびりついていることを取り出して、それを伝えたい相手に向けて、その相手が元気になりそうな文脈で語り進める自分史、思い出さない自分史を私はお勧めします。