自分史を書くなら、外へ出かけよう(博物館編)
自分史づくりに取り組む上で、資料集めや情報収集は大切な準備段階といえる。
たとえば家の物置にしまったままのアルバムや日記、手帳などは最も身近な自分史資料であり、それらが自分史に取り組む上で重要な役割を担うことは間違いない。これらを仮に「家庭内自分史資料」と呼ぶならば、家の外にも自分史の資料になる素材は豊富にある。こちらを「家庭外自分史資料」とでも呼んでおこう。
まずそのひとつは、以前「散歩自分史」のコラムでも言及したが、思い出の場所、懐かしい場所に実際に赴いてみることだ。現地に立つことで思い出される光景や、込み上げる感情があるはずで、その体験自体が自分史に紐づけられるはずだ。
今回のコラムでは散歩自分史とは別に、自分史づくりの着想を広げてくれる場として博物館を取り上げてみたい。
ひとくちに博物館といっても取り扱うテーマは多岐にわたり、自分史とどのように関係があるのかピンとこないかもしれない。従って、ここでは私が実際に赴いた博物館の事例を紹介したい。
URまちとくらしのミュージアム(東京都北区)
UR都市機構が運営する博物館である。URの前身は日本住宅公団で、戦後の高度経済成長期に数々の団地を建設し、日本の人口増加を下支えしてきた歴史を持つ。そんなURが運営している博物館であるから、団地の変遷の展示が豊富である。
かつて都心を中心に根強い人気があった同潤会アパートやマンモス団地の間取りが年代ごとに再現されている。これらは当時の実物を移築するなど文化的財産でもあるため、内覧の際には土足は厳禁。ビニールを靴にかぶせることが義務付けられるほど管理が徹底されている。
私自身は団地住まいの経験はないが、子どもの頃によく遊びに行った友達の家が思い出され、懐かしい記憶が蘇った。
こちらは入場無料だが、事前予約制なのでご注意を。
鉄道歴史展示室-Lの時代、国鉄特急、大集合(東京都港区)
こちらは国鉄時代に全盛期を迎えていた「L特急」の写真展である。鉄道写真家、南正時がとらえた数々の特急電車がその往年の姿を現在に伝える。
昭和40年代から60年代にかけて、ブルートレインやL特急の雄姿は当時の子供たちの心を虜にした時代でもある。鉄道に興味のない人でも、昭和53年の国鉄のキャンペーンソングとして誕生した、山口百恵の「いい日旅立ち」を知る人は多いだろう。
当時は休日ともなると主要駅のホームにはカメラを抱えた鉄道少年たちで溢れ返った。鉄道写真家、南正時はそんな子供たちの憧れ、カリスマであった。
展示コーナーに、当時の鉄道少年の部屋を再現した一角があった。百科事典、筆箱、下敷き、ポスターなど、様々なところに当時の懐かしい品々が並べられている。同じ時代に、同じような趣味を持ち、同じようなグッズを集めていた世代にとっては、実に懐かしい光景であった。
なお、本展示は鉄道博物館(さいたま市)での人気企画を、東京新橋の鉄道歴史展示室にて開催したもので、2025年3月で終了している。
自分史に取り組む上で、心の奥に深く眠っている懐かしい記憶や光景にアクセスする選択肢は多いに越したことはない。その意味で、家の外に出てみると、予想だにしなかった記憶が喚起されることがあり、博物館はそのひとつの選択肢になり得るだろう。また、展示の仕方、物の見せ方、伝え方は、自分史づくりの参考にもなる。
ぜひ近隣の博物館を調べて、足を運んでみていただきたい。
なお、展示物の写真撮影には許可が必要なので、くれぐれも注意したい。