自分史を味わうための読書(6) 先人の著から大いに学ぼう

一般社団法人 自分史活用推進協議会理事 河出岩夫

自分史とよく似た言葉に、自伝、自叙伝、伝記などがある。
実際にはそれぞれに定義やニュアンスに違いはあるものの、厳密に使い分けている人はどれだけいるだろうか。
私なりに簡単に分類すれば、「自伝」は偉人や著名人の人生を客観的に記録したもの。一方、「自叙伝」は自伝に「叙」の文字がひとつ加わることからも察せられるように、叙情的な要素が含まれる。いわば演出や味付けが加わり、読み物として読者の感性に訴える要素が含まれる書き物ということができる。「伝記」は、本人ではなく、第三者が資料を元に書くものだ。以上が偉人や著名人のものであるのに対し、「自分史」は市井に暮らす人びとが書き残すもので、表現手法も様々である。
いずれにしても、それぞれに違いはあるものの、共通していえるのは、一人の人間の人生を記録し、後世に伝えるものとして書かれていることだ。その点において自分史も自伝も、自叙伝も伝記も同じ分野、仲間ということができる。

もし自分史に取り組もうとするとき、これまでに書かれた書籍が参考になるのは言うまでもない。しかし、自分史の多くは一般の人が書いたもので、部数も少なく、市販されることはあまりない。従って、知人が書いたものなどのツテを頼るか、自分史図書館などへ足を運ばない限り、一般的には入手や閲覧が困難なのが自分史だといえる。
そこで頼りになるのが、著名人の自伝や自叙伝の類となる。これらの多くは市販されていたり、図書館で探すことも可能だからだ。
では、実際に誰がどんな自伝や自叙伝を書き残しているのか。現代ならインターネットで検索すれば、情報はいくらでも入手できる。気に入ったものがあれば、ネット書店で購入するのもいい。
しかし、自伝を勧めるための書籍もまた大いに参考になる。誰の、どんな自伝が面白いのか、その道に明るい著者が解説してくれるからで、これらの情報はインターネットで得られるものよりも深みがある。
そこで今回は自伝を紹介する本を3点ほどリストアップしておきたい。

【1】『自伝の名著101』(佐伯彰一編、新書館)

政治家、軍人から文学者まで洋の東西を問わず、著名な自伝を101冊紹介。解説者はそれぞれの道の専門家で、アカデミックな傾向が強い。どの一冊をとっても骨太の自伝ばかりであろう。自伝一覧としても活用したい。

【2】『自伝を読む』(斎藤孝、筑摩書房)

大の読書家としても知られる斎藤孝氏であるが、冒頭で「世の中には多くの種類の本があるが、自伝というのはスペシャルです」と書き出している。紹介本の点数は14冊と少ないが、自伝がいかに面白いか、一冊一冊に込めた著者の熱意に一読の価値がある。

【3】『この自伝・評伝がすごい!』(成毛眞著、KADOKAWA)

読書家、ビジネスマンとして著名な成毛氏ならではの自伝のリストアップ。政財界を代表する有名人の自伝を中心に、独自の視点で20点余りの自伝・評伝を紹介。傾向としては自己啓発やビジネス書に近いので、働き盛りのビジネスパーソンにお勧め。

たとえ偉人や著名人であろうと、名もなき市井の民であろうと、一人の人間の人生の尊さにはなんら変わりはない。先人の著から大いに学び、自分史づくりに役立ていただきたい。