自分史を味わうための読書(4) 応用型自分史の醍醐味

一般社団法人自分史活用推進協議会理事 河出岩夫

自分史の書き方において最もスタンダードな表現スタイルは時系列型だろう。つまり、個人年表に沿って書き進めていく手法だ。これは書き手だけでなく、読み手にとっても著者自身の人生を知る上で分かりやすい構成で、実際多くの自分史がこうしたスタイルで書かれている。
この時系列型自分史を基本型として取り組んだ場合、次のステップとして応用型の自分史表現の選択肢はぐっと広がるだろう。無論、自分史は人生で一度だけ書くもの、というルールはなく、むしろ時系列型自分史に取り組んだ人こそ、自分史表現の妙味に気づくことになるだろう。
その応用型自分史のひとつとして、人物紹介型自分史というスタイルについて言及してみたい。このスタイルでは、文字通り、自分の人生において関りをもった人物との関係性を中心に、自分史を展開していくことになる。もちろん、登場する人物の個人情報や尊厳、名誉には配慮が必要であるし、存命であるならば本人の了承を得ておくことは弁えておきたい。

さて、前置きが長くなったが、今回紹介したい書籍は『“同い年”ものがたり』(佐高信著/作品社)という一冊。この本の中では、評論家である著者が関わった7つの世代、102人の人物が紹介されている。政財界や文化人、スポーツ選手など多岐にわたるが、無論これは著者自身が著名人であるがゆえになせることである。要は、書き手にとって等身大の、実際に関わりをもった人物に焦点を当てさえすればよいのである。有名無名は重要ではない。
ただ興味深いのは、この書籍は著者(1945年生まれ)の視点から見て、20年上の世代から15年下の世代までを各世代ごとに区切って、彼らの生きた時代性と共に著者との関りを織り込んで構成している点である。

今回取り上げた本
『“同い年”ものがたり』(佐高信/作品社/2017年)

本のタイトルは「同い年」となっているが、これは著者から見れば、20歳上の世代は同世代ではなく、「同時代」を生きた人物となるだろう。また、「同世代」と呼べるのはプラスマイナスで5歳ほど年齢差といえる。そして「同い年」だけは特別な存在で、これは同じ年に生まれた人や、同学年の相手のみが対象になるから年齢差は1歳未満である。
これらは人物紹介型自分史の分類として、「同時代」「同世代「同い年」という区分で構成し、相手と自分との相関性を通じて、結局のところ自分自身がどんな時代に、どんな関わり合いの中で人生を生きてきたのかを浮かび上がらせることにつながる。
おもしろいことに、こうした応用型自分史は一見すると自分史には見えないが、時系列型自分史の着眼点を変えていることにさえ気がつけば、やはり自分史的要素を多く含んでいるのである。
その意味で、まずは時系列型自分史の取り組みをお勧めしたうえで、応用型自分史を次の楽しみとして見据えてみることを推奨したい。なぜなら応用型自分史の着想は無数にあり、ゆえに自分史の醍醐味も無限に考えられるからである。