【シネマで振り返り 74】ダメ親父は何でも知っている! …… 「エブリバディ・フェイマス!」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

2002年8月日本公開された「エブリバディ・フェイマス!」(ベルギー/フランス/オランダ合作)は、荒唐無稽な展開、ドタバタコメディーなのにハートにびんびん響く、ちょっぴり切なくて心温まる父と娘の絆の物語だ。
ベルギーのとある町。ビンの製造工場で働くジャンは妻と娘の3人暮らし。生活は豊かとはいえないが何の不満もない。唯一の楽しみは、娘のマルヴァが週末に参加する歌唱コンテストを聞きにいくこと。
マルヴァは17歳。ちょっと太めで可愛らしいが愛想がない。彼女が選曲するのはポップやソフトロックの路線。NHK「のど自慢」でも「カラオケ大会」とも違い、さながら仮装大会の様相を呈する、いわば歌唱力はあまり問わず見てくれ楽しんでくれといったコンテストだ。そこでマルヴァはマドンナの真似をして皆の前で歌う。17歳という年はまばゆいばかりだが、お世辞にもセクシーとか美形とは呼べない。衣裳からはみだしたぶよぶよとした贅肉、あどけなさはこの場合、田舎臭いと表現したほうが的確。

マルヴァは歌唱力がないが、歌手になることを夢みてひたすらこのコンテストを目指す。観客は上の空、熱い声援を送るのは娘の父と母の2人だけ。この世で一番自分を応援してくれる父だが彼女にとっては鬱陶しい存在でダメ親父だ。
テレビで人気歌手・デビーが歌っているのを見て、マルヴァは呟く。
「何人の男と関係して有名になったのだろう……」。
ぎょっとした父と母はそんな娘を優しく元気づける。でも、彼女は知っている。自分には、憬れのマドンナやデビーのようなスター性もなければ歌もヘタ。自分とスターたちは大きな違いがあることを。だから、ふてくされてうとましい父に反抗するだけの毎日。

そんなある日、一家の家計を支える父のジャンは工場が倒産し職を失ってしまう。同僚のウィリーも同じだ。途方にくれる2人。そんな時、人気歌手のデビーがお忍びでサイクリング途中、故障したジャンの車の修理を手伝ってくれた。
今は職なし金なしの失業者のジャンは、半ばやけくそで人気歌手を誘拐し身代金を要求する計画を思い立つのだった……。ここから先はドタバタ続きなので観てのお楽しみということに。

ブルーカラーの善良な市民、ダメ親父であるが心やさしいジャンは誘拐したデビーを傷つけたりはしない。ただ、デビーのプロデューサーを通じて娘のマルヴァを歌手デビューさせる交渉を成立させたいだけ。しかし、今のままの娘ではダメなことを父はよ~く知っている。そう、ダメ親父ことジャンは娘の真の価値を知っているのだ。そのためには自分がテープにふきこんだメロディーを楽曲にして娘に歌わせることが必要だ。
デビーのプロデューサーもお人よしではなく、百戦練磨のつわものだ。デビーを無事に返してもらいかつ新曲が売れるように策を練ればいいのだ。ブルーカラーのジャンと時代の先端をいくホワイトカラー(?)の知恵の勝負。さて、マルヴァの歌手デビューはいかに……。

結局、ストーリーは思わぬ方向へと展開し、マルヴァはテレビで歌うハメに。それはかつてのようなセクシー路線の歌でもなければのど自慢系の歌でもない。搾取され続ける労働者階級の切実な想い、悲痛な叫び、不公平に対する怒り、反発、そして労働への賛辞といった思いがつまった力強い歌だ。それは「ラッキー・マヌエロ」。スター性のない平凡な顔、ぶよぶよの体型をカバーするため怪傑ゾロのようなコスチュームに身を包んだ娘は、父の希望通りにいつもの姿に戻りブラウン管の前で力唱する。
コンテストで歌う没個性のマルヴァではなく、自信に溢れ自分にあった歌を高らかに歌う娘の姿が、そこにあった。オペラ歌手だってド迫力声量を維持するためか太めの人が多いものネ。テレビに釘つけになっていた国民は、覆面歌手とされていた歌手マルヴァの歌に歓喜し褒め称えるのだった。

そう、ダメ親父は何でも知っていたのだ! 娘の本当の才能を信じ、何が彼女をチャーミングに見せるのかを。労働者階級の人々へのオマージュに満ちた本作は、2001年の米国アカデミー賞外国語映画賞のノミネーションにふさわしい作品だ。

※「エブリバディ・フェイマス!」(2002年8月17日公開)
エブリバディ・フェイマス! : 作品情報 – 映画.com

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