【シネマで振り返り 72】生きるのは大変だけど、捨てたもんじゃない …… 「天国までの百マイル 」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

2000年11月に劇場公開された日本映画「天国までの百マイル」は、同年3月に日本公開されたハリウッド映画「ストレイト・ストーリー」程の長距離ロード・ムービーでなく、わりかしあっさり目的地に着いてしまうのが正直残念だった。「○○までの百マイル」とあるからには、目的達成までのプロセスをもう少し長く描いてほしかったというのが本音。目的地は千葉の鴨川である。
原作は直木賞作家・浅田次郎の同名小説。正直者の善人たちが大勢出場し、倒産、金ナシ、妻子に逃げられその日暮らし、3人の兄弟からも見捨てられたどん底男(主人公・安男)の窮地を人情で救うという美談でまとめあげられ、しんみりとした感動を呼ぶ。物語は「ストレイト……」同様、実にシンプルだ。

主人公・安男を演じる時任三郎は、どん底男の悲哀と気のイイ人情家ぶりをさりげなく演じている。安男の別れた妻・英子は別れたものの元夫への愛情が冷めた訳ではない。それ故に別れた夫の3人の兄弟は義母の看護をしないというのに、損得勘定なしでかいがいしく義母の面倒をみるのである。
安男を無償の愛で包み世話するホステス(職業はハッキリと示されていない)マリ役に大竹しのぶ。マリは典型的な無私無欲の女である。「愛されることは幸せじゃないけど、愛することは幸せだよ」と口癖のようにいい、愛する男のために身をひき男の元妻との復縁を薦めるくらいの潔い心の持ち主なのである。気のいいマリは喫茶店に英子を呼び出し、わざとハスッパな女を演じ2人にヨリを戻させようとする。涙をこらえて。電話の向こうの安男も女の心根の優しさ、潔さに心打たれ、涙にくれる(鼻水まで流して!)。
そして、この2人を足したような母性の源は母であるきぬ江である。演じるのは八千草薫。
女手ひとつで子ども4人を育てあげ、悠悠自適の身になったと思った矢先、末っ子の安男がどん底男となる。持病の心臓病で倒れても笑顔を絶やさず心配をかけまいとピースサインを送り気配りを忘れない。

善人は女達ばかりではない。母を千葉の病院へ運ばなければいけない。だが、金がない。車がない。時間がない。人手もない。兄弟や会社の人間は冷たく安男を見限る。金を借りていた街金融の男(筧利夫)は、情け容赦なく借金を迫るが移送中の安男の母をみて、人間としての優しさを忘れていない。金を貸し、病人に優しい言葉をかける。道中、母と食事をとるために入った食堂で、無骨な男たちは咄嗟に病人への配慮をみせる。汗だくだくで食事をしながら、クーラーなんかなくても暑くないよな、と言い聞かせ。

そもそも千葉の病院にアメリカ帰りの優秀な執刀医がいると教えてくれたのは、事なかれ主義の病院勤務医の藤本という医者だ。彼は、自分の母親を決断力不足で死なせていた。その自責の念がリスクを伴う決断へと安男を導いたのだ。
優秀な執刀医・曽我役は柄本明。口から出てくる気のいいセリフの数々に、人生を知っている人間の重みを感じる。このようにお腹の中に持っているものを同じくするイイヤツたちがフル出場するのである。

善人たちの優しさに触れ、曽我医師の難手術を経て、奇跡的に母を窮地から救う安男。生きていくのは辛いけど、いや辛いからこそこういうファンタジーを含んだ結末があってもいいのではないか。……と私は心から思う。
浅田次郎はファンタジーが好きだ。「鉄道員(ぽっぽや)」に登場する広末涼子もお化けだ。世知辛い人生だからこそ、これくらいの<遊び>があってもいいのではないか。生きるのは死ぬより辛いのだから。

※「天国までの百マイル」(2000年11月25日公開)
天国までの百マイル : 作品情報 – 映画.com
「ストレイト・ストーリー」(2000年3月25日公開)
ストレイト・ストーリー : 作品情報 – 映画.com

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