【シネマで振り返り 70】ノーベル賞数学者の数奇な人生 …… 「ビューティフル・マインド」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

ハリウッド映画「ビューティフル・マインド」は、ノーベル経済学賞受賞者の天才数学者、ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニア(2015年5月没)の波乱に満ちた生涯を描いた作品だ。

「天才」という名誉ある賛辞と引き換えに、彼らは天与の才能と世間(一般的に社交性に乏しくそのことで悩む人が多い)との狭間で苦悩し、社会生活に順応できず潰れてしまう事も少なくない。世の中に「天才」伝は数多く、たとえば、「シャイン」(1997年・オーストラリア)のモデルとなった天才ピアニスト、デビィット・ヘルフゴット。主演のジェフリー・ラッシュは実存する天才ピアニストの実像をさながら合わせ鏡のように演じ、ヘルフゴット自身は苦難を乗り越え精力的に演奏活動を続けた。
「シャイン」はその年の作品賞が粒揃いだったこともあり作品賞こそ逃したが、ラッシュは本作で主演男優賞に輝いた。すばらしい作品だった。当時書いたレビューを改めて読み返してみると、「女たちの愛によって蘇った天才ピアニストの半生を描いた作品」と書いている。事実、ヘルフゴットの人生の苦難のシーンでは、いつも女性が助け舟をだし、危機を脱出している。ヘルフゴットにとって女性は、精神の安らぎをもたらしてくれる母なる大地であり、菩薩のような慈悲を施してくれる存在だったのだ。

「ビューティフル・マインド」のモデルとなったナッシュにとって「菩薩」でありえたのは妻のアリシア(ジェニファー・コネリー)だ。天才数学者を突如として襲った心の病。ナッシュは小さい頃、「脳は2人分、ハートは半分」といわれて育った。妄想に悩まされ現実と非現実の境界があいまいになり、意味不明の言動や奇怪な行動を繰り返すようになり、ナッシュは次第に社会から隔離されていく。天才として注目された青年期、病との戦いの中年期、復活を果たした壮年期――いつも分裂症状に苦しむ天才の夫をかいがいしく支えた妻がいた。
ナッシュ自身も又、病に侵食されることを嫌い、自身の学問分野で研究している高度な「知性」で病に立ち向かっていった。妻は、厄介な病気としりつつこの世では解明できない力(=ハート、愛)で夫の病を取り除くことができるのではないかと信じ、ついにその信念は夫にノーベル賞受賞という栄誉をもたらす。つまり本作は、ナッシュ夫妻の「ピュアな精神」の戦いの歩みを描いたものなのだ。

いまだ神秘のベールに覆われている分野だけに興味はつきない。このような実話を元にした作品をみると、摩訶不思議なモノ、それこそ「愛」の力だと思いたくなる。この世に自分を信じ、待っている人がいる、自分の存在価値を認めてくれる人がいる。すなわち社会との繋がりを肯定させる力をもった愛だ。人は所詮、一人では生きられない弱い存在だ。

タフガイのイメージが強いラッセル・クロウは、精神世界にいきる繊細かつ複雑な天才像をリアルに演じていた。さらに驚いたのは、妻を演じたコネリーの演技だ。アイドルのまま終わってしまうとタカをくくっていたのだが、美貌に知性、そして大人の女の聡明さや強さをプラスして見事な女優に成長し、本作でオスカーをゲットした。おそらくこの女優にとってターニングポイントとなった作品ではないだろうか。
ナッシュの紆余曲折の人生を見てもわかるように、人生は長い河、勝負は続く。だから、その時は敗北の憂き目にあっても屈辱の日々を送っても、腐らず、夢を諦めず、生きていきたいものだ。

※「ビューティフル・マインド」(2002年3月30日 日本公開)
ビューティフル・マインド : 作品情報 – 映画.com

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