【シネマで振り返り 67】ノンシャランといこう~ 退屈な日常だって悪くない …… 「月曜日に乾杯!」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

2003年10月日本公開された「月曜日に乾杯!」(フランス・イタリア合作)は、がんばっているお父さん達にエールを送るほのぼのとした物語だ。飄々とした不思議な世界観を構築するグルジアの名匠オタール・イオセリアーノ監督の手にかかった本作は、人生や家族の中に居場所を失った男の悲壮感はなく、楽しい寓話を読んでいるような穏やかな気持ちになる。

フランスの小さな村に住むヴァンサンは妻と2人の子ども、母親の5人暮らし。工場勤務のヴァンサンは毎朝早く起床し、車で駅に向かいそこから電車とバスを乗り継ぎ、長い労働の時間につく。仕事中は禁煙なのでタバコをガマンしなくてはいけない。労働が終わって家に戻ると、出かける時に脱いだ場所にあるサンダルに履き替え、家の中に入る。
いつも決まった場所だ。帰宅しても子どもたちは彼と話そうともしないし、妻は黙って食事の支度をするだけ。無視されているわけではないが、一家のお父さんを誰も気にかけていない。ただ、工場へ通って生活費を稼いできてくれればいいだけの存在、それが一家の大黒柱である彼の価値のようだ。
世界中のお父さん達が実感している(?)さりげない日常の積み重ねは、一見、平和の象徴のようにも見えるものの味気なく、お父さん世代の悲哀をも感じさせ身につまされる。子どもたちは離れに住んでいるおばあちゃんとはよく会話をするが、お父さんとはまるきしナシ……。

惰性のように繰り返される退屈な毎日にうんざりしたヴァンサンは、ある日旅にでようと決心し、街で一人暮らしをしている実父に会いに行き、バーに行き、ついにワイン片手にお隣の国イタリア(ベニス)まで行ってしまう。ここからフランスの片田舎の牧歌的な風景から観光都市ベニスの魅惑的な風景へと一変する。
父親の旧友を訪ね、思うままに好きだったスケッチをし、駅で出会ったカルロという男と共にベニスを周遊する。一方、父親が突然消息不明となった一家はびっくりするものの彼がいなくても何ら変わることなく時間は流れる。ヴァンサンは心ゆくまで非日常の時間と自由を満喫し、憂鬱な毎日を忘れて楽しむ。
しかし、気のいいイタリア男カルロの家でもてなしを受け、翌日は彼の仕事先へ一緒にいったヴァンサンがそこで見たものは、自分と同じように工場の外で喫煙する男達の姿だった。
自分の生きる世界と何ら変わりのない光景がここにもある。つまり、どこにでもルールがあり、人は報酬と引き換えにその社会的規制に従わなければいけないという不変の現実だ。享楽主義者のように見えるイタリア人だって決して怠けてばかりいるのではなく規制にがんじがらめになっているのだ。そうであるならば、いかに人生を楽しいものに変えていくかは自分次第!

幾日か旅を満喫して帰宅したヴァンサンの目に映る我が家は同じモノでありながら同じでない。行方不明になったお父さんを家族は驚きもせず迎え、孤独から癒された彼にとっては総て新鮮だ。いつも自分を無視しているように見えた妻もいつになく可愛くいとおしく思える。自分は孤独じゃない、喜びや幸福を分かち合える家族や友人がいるという実感は彼を励まし、退屈な日常に耐える活力源となるのだった。
人生にはたまに寄り道するのも必要! 〈ブルー・マンデー〉なんて言ってはいられない。がんばっているお父さんにエールを送るほのぼのとした物語だ。

※「月曜日に乾杯!」(2003年10月11日 日本公開)
月曜日に乾杯! : 作品情報 – 映画.com

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