【シネマで振り返り 44】人生、時々、道草 ~ゆっくりいこう!~ ……「キャッチボール屋」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

ほのぼのとしておかしく、そして人生の真実をさりげなく教えてくれる、大人のメルヘンだ。東京のとある公園、ここには10分百円でキャッチボールの相手をしてくれる「キャッチボール屋」がある。次第にわかるのだが、かなり前から続いている商売で、客もそれなりに入っている。
主人公タカシ(大森南朋)は会社をリストラされ田舎へ帰っていたが、同窓会の集まりで深酒をし、目を覚ますとこの公園にいた。そこで見ず知らずの紳士に誘われキャッチボールをするのだが、近くで遊んでいた子どものバットがタカシの頭を直撃し、軽い記憶喪失になってしまう。自分が東京へきた目的を忘れ、気がつくとキャッチボール屋をまかされ、お人好しでハッキリしない性格のタカシは、ずるずるとキャッチボール屋の客の相手をすることになる。紳士からはアパートを貸してもらい、リストラされたので職はナシ、暇だから思わぬ道草をくうタカシ……。

そこには実に様々な人が集ってくる。不思議でちょっとわけありの人ばかり。プロ級の投球をするサングラスの男(寺島進)、いつもランチを公園で食べるOL(キタキマユ)、おしゃべりな借金取り(水島研二)、ベンチに腰掛けてボーッとしている体格のいいサラリーマン風の男(松重豊)、キャチボール屋の常連の帽子の男(光石研)、やたらと気をかけてくれる売店のオバチャン(内田春菊)など。
都会でも田舎でもない公園。そこで黙々と客のボールをキャッチするタカシ。口下手の彼は客と話などしない。都会のエアポケットのようなのんびりした公園で、人々の思いを受け止めるタカシ。やがて、公園に集う人々の過去やヒミツが少しずつ明らかになってゆく。立ち止まっていた時間にケリをつける人たち……。

生き急ぐだけが人生ではない。ちょっとひと休みして大事なものを取り戻そう! 気がつくとタカシは記憶から欠落していたものを思い出し、進むべき道へと落ち着くのであった。モヤモヤした時、迷いが生じた時、無心で何かをやるための手段は散歩や陶芸など様々だが、キャッチボールを是非お薦めしたい。受け止めてくれる人がいる、一人ではないという安心感。人は一人では生きていけない。寄り添ってくれる人の大事さを再確認できる作品だ。
純朴で人のイイ役を大森南朋が好演。寺島進をはじめとする名優たちが妙な味わいを残す。先代キャッチボール屋として庵野秀明、「ほえる犬は噛まない」の韓国女優キム・ホジュンまで登場する豪華さに加え、山口百恵の「夢先案内人」が作中で使用されたりと小道具もきいている。監督は北野武、竹中直人たちの助監督を務めてきた大崎章。

*「キャッチボール屋」(2006年10月21日公開)
キャッチボール屋 : 作品情報 – 映画.com

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