【シネマで振り返り 43】ひとつの心臓(ハート)をめぐる魂の物語 …… 「21グラム」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

2004年6月に日本公開されたハリウッド映画「21グラム」は魂の物語だ。命の重さ、死、命の循環、罪……重厚で普遍的なテーマを内包したドラマを、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツという個性的な俳優陣が、それぞれが直面する深い悲しみ、怒り、絶望、といった複雑な感情と向き合う役どころを見事に演じる。
作品の惹句「一つの心臓が引き寄せる3つの人生」とは、よく言ったものだ。交通事故死したある女の夫の死によって心臓(ハート)を提供してもらい命をもらった男。不運にも人の人生を奪ってしまった男。それぞれの人生が心臓(ハート)を縁に交錯していく……。
現在と未来が交錯して描かれる構成は少しわかりづらく、時間処理が錯綜しているので混乱するのは事実だ。しかし、この時間処理がなかったらサスペンスドラマにみられるお決まりの演出になっていただろう。

ニューメキシコに住む主婦クリスティーナ(ナオミ・ワッツ)は2人の子どもに恵まれ、優しい夫と共に幸福に暮らしていた。
前科者のジャック(ベニチオ・デル・トロ)は、今ではしっかり改心し家族と共に信仰によって生きる望みを繋いでいた。
大学で数学を教えているポール(ショーン・ペン)は、余命幾ばくもない重病の身。生きる望みは、心臓移植しかない。そんな彼を別居中の妻がかいがいしく看護していた。男の妻は夫が死ぬ前にせめて子どもが欲しいと願っていた。
ある日、クリスティーナは一瞬にして不幸のドン底に落される。夫と2人の子どもが交通事故死したのだ。犯人はひき逃げしてつかまらない。深い悲しみでクリスティーナはやめていたドラッグに頼り無為の日々を過ごす。クリスティーナの悲しみの裏で、彼女の夫の心臓をもらって生きることができた男(ポール)がいた。神の恵みに感謝したポールは、自分を生かしてくれた男の妻、クリスティーナをひと目みたいと思いアプローチする。ポールにとって別居中の妻との関係よりも、奇跡をくれた女性への思いが日々募るのだった。
一方、敬虔な信仰心をもって日々を生きていたジャックは、神からの贈り物だったトラックで尊い3人の命を奪ってしまったことで、神へ裏切られた思いを抱き、罪の意識に苛まれ家族の反対も押し切ってひき逃げの罪を自首するのだった。

心臓移植を扱ったドラマは数多くある。「ジョンQ 最後の決断」では、冒頭に交通事故死した女性が描かれる。息子が心臓移植を必要とするのにお金がないために、病院に拒まれ、保険会社に拒まれ、孤立無援状態になった父親(デンゼル・ワシントン)は追い詰められ異常な行動をとり世間の注目を浴びるが、やがて冒頭の女性の心臓が息子を救うことになりメデタシメデタシとなった。
日本映画「半落ち」では、死んだ息子の心臓で生きている少年に一目逢いたいと思う夫、息子の命が少年の中で生きている、つまり夫の化身である少年と夫を引き合わせることが絆を取り戻せると信じた妻の健気さ―――夫婦の崇高な情愛が描かれていた。

クリスティーナは、夫の心臓で生きているポールの真摯な愛情を徐々に受け入れ好感をもつようになるが、人を愛すれば愛するだけ命の重さの意味を知り、いとも簡単に愛する者たちを奪った犯人を許すことができず復讐を決意する。加害者であるジャックは、罪の大きさに耐え切れず家族を捨て……。

みな絶望の淵でもがき苦しむ救いのないドラマだ。押さえられないレアな感情を3人の役者たち、とりわけナオミ・ワッツは観る者の胸をえぐるような演技で唸らせる。しかし、絶望の先にチラリと見える希望がクリスティーナの未来に光が射す予感を覚え救われる。
人は、命の灯が消える時に21グラムだけ軽くなるそうだ。悪人も善人も分け隔てなく均等に。それは魂の重さとも言えるのではないか。肉体から離脱した魂の。

*「21グラム」(2004年6月5日 日本公開)
21グラム : 作品情報 – 映画.com

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