【シネマで振り返り 34】坂道を上り下りし、みな大人になっていった …… 「坂道のアポロン」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

♪♪~青春は長い坂を上るようです~♪♪
1970年代に活躍した美少女アイドルが歌った「青春の坂」の印象に残る歌詞だ。
雪深い地方で育った人は雪とともに生活しているので、少しも違和感はない。同じく坂の多い地区で育った人も、生活圏に坂があるから上り下りしなければならない。当然のように思えたことが、生活する場所や価値観が変わると不思議に思えるものだ……。

1960年代、長崎県佐世保市。海と山に囲まれ坂の多い町は、旧海軍と米軍基地のあるエキゾチックな雰囲気をもつ。両親をなくし都会からこの地に引っ越してきた西見薫(知念侑李)は、経済的に恵まれてはいるが孤独感をうめられず広い家の中にも学校にも居場所を見つけられない。そんな時、同級生の不良っぽい川渕千太郎(中川大志)と彼を慕う迎律子(小松菜奈)を知る。ケンカばかりで親分肌の千太郎はジャズ好きなドラマーで、律子の実家(レコード店)の地下室で練習している。律子への恋心を覚えた薫は、ふとしたことから千太郎を通してジャズに魅せられ、3人は急速に親しくなっていくのだった。
千太郎がドラムをたたき、薫はピアノを弾く。そして、千太郎が兄のように慕う大学生の淳一(ディーン・フジオカ)が帰省していてトランペットを奏でる。すっかりジャズの魅力にはまった薫は地下室での至福の時間を過ごし青春を謳歌するようになっていた。

西海橋

 

しかし、大人になった者たちは覚えがあるだろうが、青春を生きる若者たちは、ちょっとしたことで傷つき、誤解し思わず大事な人を傷つけ、いらだち、涙する。律子を好きなのに彼女は千太郎を思い、千太郎は都会からきた年上の女性に惹かれる。強くてカッコよくて不良(?)だが人気者で何でも持っているように思える千太郎へ嫉妬を覚える薫だが、彼には悲しい出生の秘密があることを知る。さらに千太郎が思いを寄せる女性は彼が兄のように慕う淳一の恋人と知る。事実を知り荒れる千太郎は、知っていて何も言わなかった薫と疎遠になってしまい……。親しくなった3人は、人生で初めて遭遇する感情や出来事に戸惑いぎくしゃくしてしまうのだった。

九十九島

原作はマンガ家の小玉ユキが「月刊flowers」(小学館)で2007年11月号から2012年3月号まで長期連載していた同名作品。
私の故郷を舞台にした原作の映画化であるばかりか、主人公が作中で「いまいましい坂」「大嫌いな坂」といっていた坂は馴染のある、まさに「青春の坂」。遅刻寸前に上る坂道がどんなに苦々しく思えたことか。懐かしい場所が多くロケ地に使われていて思い入れはひとしお。気になっていた役者陣の方言も問題なく、地下室でのセッション、学園祭でのセッション、教会での号泣、糸電話での告白など印象的なシーンが多く、3人の爽やかな魅力あいまって好感度大の作品に仕上がっている。

平戸・田平天主堂

試写中、しっかり〈振り返り〉ができ心が懐かしい“あの頃”に戻ったついでに、ライター業を通して自分史作りに携わった時間へとタイムスリップ。そういえば、シネマレビューを幾つか書かせていただいたが、いまだできていないことがある。
生まれ故郷の方言でレビューを書くことだ。方言は次世代に継承したい「わたし遺産」であると自負しているだけに、この機会に実現させていただくことにしよう!

故郷の思い出ばかたる時、方言ば使わんでどがんすっと!(使わないでどうするの!)。
忘れるはずはなか、あの時代の友人も出来事も感情も。
通り過ぎたあの時代の思い出や親しかった友達は貴重な宝物やもん(宝物だもの)。
一過性のもんじゃなか~、一生もんの財産たい。そがんふうに思ゆう(そんなふうに思える)思い出ばいっぱいもっとる人は幸福たいねぇー。
そう、皆、がまんばして坂(=試練)ばこえて、大人になるとさ。そうけん、皆がんばろーね、そいぎんたー(それではまたね)!

※「坂道のアポロン」 2018年3月10日~ 全国ロードショー
映画「坂道のアポロン」公式サイト

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