【シネマで振り返り 4】ターニングポイント……「スライディング・ドア」「愛と喝采の日々」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

ちょっとした出来事が人生を変えることがある。
もし、あの学校に入っていたら……。
もし、あの時、あの人と別れていなかったら……。
もし、あの仕事を断らなかったら……。
もし、あの時の試験であと5点多くとっていたら……といった具合に。

「スライディング・ドア」(1998年9月日本公開)は、ターニングポイント(転機)をモチーフにし、人生の不思議をわかりやすく描いた作品である。電車の扉を運命の鍵としてとらえ、乗れなかった女の人生と運よく乗れた女の人生が交錯するように描かれ、仕事や恋愛の決断に揺れる女心を2つの人生に分け、観る者に納得のいく決断を促している。どちらの人生なのか混乱してしまうこともあるが、ヒロイン(グウィネス・パルトロウ)に髪形をチェンジさせたり対称的な気分を象徴する色の服装にしたりして区別している。

興味深い点は、電車に乗れなかったヒロインは腐れ縁の優柔不断の浮気男を捨て、電車に乗れたヒロインが知り合った男と出会い恋の予感を覚えるという設定にしてある事だ。つまり、この世で起こることはすべて必然性に導かれているとし、新しい恋人には出会うべくして出会ったということを示唆してみせる。

変わらないものなど何ひとつない人の世においては、誰もが都度、変化を余儀なくされ幾度もターニングポイントに遭遇する。人生は選択と決断の繰り返しである。迷った末に選び取った道が自身の望まぬ方向へ展開したとしても、しばらくしてそれが逆に良い結果をもたらすこともある。だから、焦らずヘコまず自分を信じて進み、時に振り返り転機を自分の成長のチャンスとしたいものだ。

※「スライディング・ドア」1998年9月12日公開
スライディング・ドア : 作品情報 - 映画.com

この作品より20年程前に公開された「愛と喝采の日々」(1978年4月日本公開)は、かつて選んだ人生のターニングポイントを引きずった女たちのその後を描いたヒューマンドラマだ。私はこの作品を80年代と90年代に2度は見ているが、年齢を重ねるほどしんみりと味わい深く鑑賞した。

かつてのライバルで親友でもあった女への嫉妬と羨望。結婚・妊娠を機にバレリーナとして生きる道を捨て喝采の舞台を諦め平凡な田舎暮らしの主婦に収まったディーディー(シャーリー・マクレーン)。平凡さを否定し、喝采の魅力に憑かれバレリーナとしての人生を力強く歩み続けているエマ(アン・バンクロフト)。歳月を重ね、2人の親友は再会する……。「愛と追憶の日々」(1984年日本公開)のシャーリー・マクレーンと「卒業」(1968年日本公開)のアン・バンクロフトというタイプの違う2大女優の競演が見もの。

平凡な主婦の道を選んだ女は、かつて自分が妊娠した時、産むべきか産まずにバレリーナとして生きるべきか悩み親友のエマに相談したところ、産むことを勧められた。その結果、自分がおどるはずだった主役の座を親友が射止めたことを素直に喜べず、わだかまりを抱えたまま生き続けてきたのだった(経済的に困ることもなく、愛する男と可愛い娘がいるのに……だ)。

ぎくしゃくした女たちは長い不在の後、大げんかをし互いの身におきたターニングポイントについて本音をぶつけあう。本作の見せ場のひとつ、壮絶な取っ組み合いの果て、この大げんかという出来事が2人の距離を近づける(つまり、ターニンングポイントとなる)。結果として、「出会い直し」て「生き直し」へと繋げるのだから、成功事例と言えるだろう。さらに、自身が諦めた夢を奇しくも娘のエミリアが叶えようとしているという人生の不思議。その娘にも、この先、幾つものターニングポイントが待ち受けていることは言うまでもない。

自分史(作り)では、過去を振り返る作業を必要とするが、その際、ポジティブにとらえることを原則としている。ありえたかもしれない別の人生――あれこれ思いを巡らすのは勝手だが、望みどおりの人生(物語)を作るのは、自分自身だということをお忘れなく。どう(結果が)出るかわからないからこそ人生は面白いのだ! そして、人生は続く……。

※「愛と喝采の日々」(1978年4月29日公開)
愛と喝采の日々 : 作品情報 - 映画.com

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