【シネマで振り返り 1】”Japan as No.1” の誇りと自信はこの映画で取り戻せ!……「陽はまた昇る」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

カラーテレビが我が家にやってきたのは、1970年頃だったような気がする。学校から帰ってきたらブラウン管の向こうの人間の肌の色や着ているものが、実に鮮やかに映し出されていてすごく驚いたことを覚えている。

現在、PC、スマホ、携帯電話などはビジネスシーンにおいて必須アイテムだが、いつのまにかビジネスとは無縁の若い方たちのコミュニケーションツールにもなっている。さらに、最近はテレビや固定電話を所有せず、PCやスマホで見たいものや聞きたいものを楽しんでいる方たちが多いようだ。

技術は日進月歩で進化する。日本は技術先進国だ。時代に乗り遅れまいと誰もが購入する。メーカーはどんどん作る。メーカー間の競合がはじまり、価格がダウンする。安くなった頃にはさらに便利なオプションがついたモノが出回る。需要と供給システムの間で莫大なマネーが動く。ハリウッド映画には必ずといっていいほど日本の優秀なエンジニアが開発した車、テレビ、ビデオなどの製品が登場する。負けてなるものかとばかりに熾烈な品質競争が展開される……。

今回ご紹介する映画「陽はまた昇る」(2002年公開)はノンフィクションの映画化である。原作は佐藤正明さんの著書「映像メディアの世紀 ビデオ・男たちの産業史」(日経BP社刊)。2000年にスタートし5年9か月間、高視聴率をあげたNHKの人気ドキュメンタリー番組「プロジェクトX」でも、「ベータVHS戦争」として放送された。

1970年代前半、「世界のソニー」にのしあがった家電メーカーのトップ、ソニーがカラーテレビの次に普及すべくベータを開発していた時、赤字続きで経営難に落ち込んでいたビクターのある男の率いるビデオ事業部では、まるでソニーにケンカを売るようにVHSの開発を急いでいた。

結果、ソニー有利の世評を覆し、ビクターは市場VHSを定着させることに成功した。日本市場での成功は、やがて世界規模での成功へと繋がった。まさに日本経済史に残る偉業をなしとげたのだ。その道のりは決して平坦ではなく、突然の閃きによる幸運でもなかった。リストラを阻止するために自分たちのチームで一致団結して技術と英知と汗を結晶させ、世界に誇れるVHSを作り上げたのだ。

舞台となったのは1970年代前半。日本経済が戦後初めての苦境に立たされた時代を背景としている。それから日本は奇跡的な復興をとげバブルの時代に突入する。市場は潤い、仕事がきついなら転職先は幾らでもあるという時代だった。バブル期、転職活動をしていた方たちは、リクルートの就職情報誌をよく購入されたのではないだろうか。

しかし、不景気になると、かつて日本経済を支えてきた年配の方たちが「人件費がかさむ」という理由で真っ先に首をきられる憂き目にあってきたのも事実。自主退職してもらうために雇用側は陰湿な対応をするなど、不況は人々に自信を喪失させてきた。

だが、思い出して欲しい。経営難に陥ったある企業の一隅で、「三人寄れば文殊の知恵」で、自分たちのもつ技術と情熱で夢中になって確かなモノを作り上げた熱い時代を生きた方たちがいたということを。底力を。たとえ会社が潰れても、自分たちが作り上げた技術(=品)だけは残してみせると奮闘した者たちの不器用だが懸命に生きる姿。指揮をとった主人公・加賀谷静男(西田敏行)と部下たちの信頼関係。これらは日本が”Japan as No.1”といわれた時代、確かに存在したものだ。

本作が感動的なのは、弱者の逆転劇という典型的なヒューマンドラマだからではない。企業人が信念と熱意をもってがむしゃらに生きた時代が、日本にはあったということを示してくれているからだ。それを懐古的気分で観るのもよし、奮闘して苦境をどう乗り越えるか。ビジネスマンの「座右の一本」として観るのもよい。

15年前に公開された本作。試写室で鑑賞して、当時ライター仲間数人で運営していた映画サイトに掲載するために書いた原稿をリライトしていたら、当時のことを懐かしく思い出した。私の仕事史を振り返ると、あの頃は、PCを使用して原稿を書いていて、FD(懐かしい~!)に保存する形をとっていた。気がつくと枚数が増えるのでやめて容量が大きいものに変更してDVDに、そして現在は薄くて軽い外付けHDD(2個保有)、といった具合に変化している。

日本経済は一時期のような景気低迷こそ脱したが、企業活動や働き方など抱える問題は多い。豪華キャストによる企業人へのエール! 結局のところ、モノではなく”人”なのだと、再認識した。

※2002年6月15日公開
陽はまた昇る(Yahoo!映画)

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