【シネマで振り返り 27】まさかの出会いが教えてくれること…… 「はじめてのおもてなし」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

「お・も・て・な・し」アピールで2020年オリンピック東京開催権を勝ち取った日本だが、準備のほどはいかがなのだろうか? 1964年の東京オリンピック開催時、私は九州の田舎で暮らす幼子だったためかほとんど記憶がない。今度は、地元開催という自分史上の記念イベントなので、どんな風に過ごすか友人たちと相談しあいかなりテンションがあがっている。世界が注目する一大イベントだけに、開催地(特に東京都民)はボランティアなど様々な方法で「お・も・て・な・し」に参加し盛り上げるべきだ。
さて、本作「はじめてのおもてなし」は、2016年、ドイツ国内で大ヒットを記録したドイツ映画である。

©2016 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG / SENTANA FILMPRODUKTION GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH

ミュンヘンの富裕層の暮らす住宅街の瀟洒な家に住むハートマン夫妻。大病院に医師として勤務する夫のリヒャルト、教師を引退し暇を持て余している妻のアンゲリカ(センタ・バーガー)。老年に入った夫妻には、31歳になっても大学生活を送っている娘と働きすぎの息子がいる。彼は妻に逃げられたシングルファーザーの敏腕弁護士だ。
この一家は、父と息子、母と娘が価値観を同じくしている。ワーカホリックの息子同様、父の方も医師としての実力も見た目も年齢による衰えを認めたがらず、ヒアルロンサン注射やエクササイズを欠かさずに自分磨きに励んでいて、いつもイライラしている。娘と母はどちらかというとのんびりした癒し系。年齢的に必要のはず(?)の母の方はヒアルロンサン注射など無関心、社会奉仕活動がしたくてうずうずしている。
まぁ、それでも大きな問題もなく暮らしていたが、ある日、久しぶりに家族全員が揃った際、この家をとりしきる主婦アンゲリカが、「この家に難民を一人受け入れる」と、提案ではなく宣言をしたものだから大混乱に……。
家族の意見がまとまらないまま難民受け入れのために面接をした結果、夫妻はナイジェリアからやってきた天涯孤独で亡命申請中のディアロ(エリック・カバンゴ)をひきとり一緒に生活することになるのだった。

言うまでもなく、難民問題は世界各国が抱える深刻な問題である。ヨーロッパの主要国では排外主義が横溢しているが、ドイツは寛容、しかし国内では当然ながら反対派も多数いる。そんな情勢下、不幸な(?)難民を受けいれるというのだから大問題だ。しかし、本作は深刻な難民問題を扱っているものの笑いで包んだ心温まる作品だ。
アンジェリカは何でも器用にこなす好青年のディアロにドイツ語を教えたり、庭仕事を教えたり、教員時代のような生きがいを取り戻しイキイキしだすが周囲はそうではない。一家の隣人も難民受け入れを快くおもわず常に監視していてギスギスムード。
そんなところに、アンジェリカの友人がディアロのために歓迎パーティをすると大勢でおしかけて大騒ぎしたため警察沙汰、娘のストーカーをディアロがやっつけたためにまたしても警察沙汰になり、次から次へとハプニングが続く。いつもイライラしているリヒャルトのストレスはあがるばかりで、周囲にあたりちらしてしまう。

©2016 WIEDEMANN & BERG FILM GMBH & CO. KG / SENTANA FILMPRODUKTION GMBH / SEVENPICTURES FILM GMBH

自分が来たせいで家族がケンカばかりするようになり心を痛めるディアロは、果たして亡命申請をクリアすることができるのか?
マネー、ステキな家、自由、高度な教育……何でも持っているはずの経済大国の住民なのに不満だらけかつ家族はバラバラ。〈難民〉のディアロが、自身が望んだ先はこうなのかと不思議な気持ちになるのがおかしい。アフリカの政情不安な国(詳しくは紹介されない)からきた彼が欲しいのは、ベンツでも幾種類もの美味しいパン(たまには欲しいが)でもしわやたるみをとるためのヒアルロンサン注射でもない。家族、国家、自由、平穏な日々など何もかもなくした難民のディアロにしてみたら、老いる、仕事ができなくなる、自信を失う、誰もが自分に注目しなくなる……という心配など贅沢としか思えないのは当然である。

一人ぼっちの難民を色々な面で支援し救うはずだった側(家族)が、逆に癒され救われるという滑稽さ。これでは、どちらが〈難民〉かわかったものではない
いつしか壊れていたバラバラの家族だが、ディアロという青年との生活によって人生を見つめ直し修復していく。平和ボケしていると大事なことを見失ってしまうもの。長い家族の歴史にはちょっとしたスパイスが必要なのかもしれない。
すべてがハッピーに収まっていく爽快さがたまらない。やはり、お・も・て・な・しの心は持ちたいものだ。

※「はじめてのおもてなし」 2018年1月13日~ シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
映画「はじめてのおもてなし」オフィシャルサイト

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です