【シネマで振り返り 18】日常の中の不思議に気づきスーパーヒロインに ……「エリン・ブロコビッチ」

自分史活用アドバイザー 桑島まさき

離婚歴2回、3児の母で独身、高度な教育歴なし、貯金なし。高額な給与をもらえるだけのキャリアや教養もなし。あるのは元ミスコンの肩書と美貌と子育てのための6年間のブランクだけ。これでは就活がスムーズにいくとは思えないが、人生は捨てたもんじゃない……。
2000年5月に日本公開された「エリン・ブロコビッチ」は、先にのべた条件の女性が、ふとしたきっかけから勝ち目なしと思われた大企業を相手に訴訟(水質汚染)を起こし、アメリカ史上最高額の莫大な和解金を勝ち取り、住民の英雄的存在になった実在する人物のシンデレラ・ストーリーである。

エリン役をハリウッドの人気女優ジュリア・ロバーツが熱演。「ピープル誌」の「世界で最も美しい女性」に選ばれたこともある美人女優の女優魂はお見事! メチャクチャ下品な言葉を連発し自慢のナイスバディーを披露し、わが道をゆく実在のエリンになりきって念願のオスカーをゲットしている。
エリンの個性は好き嫌いがわかれるだろうが、スーパーヒロインの逞しさに注目したい。

人間、やる気になれば何だってできる

エリンの職探しは決してステップアップのためではなく困窮生活から脱出するためだが面接に落ちてもクヨクヨせず、雇ってくれない相手に「あたしは頭もキレるし、よく働くわ、採用するまで帰らないからね」などと脅し文句を連発。プライドなどかなぐり捨てて仕事をゲットする、フツーの人ではまずできない(?)ズーズーしさ! でも、誠意ある説得(?)を吐いたからには有言実行する。

日常はイマジネーションの宝庫、侮るなかれ

小説や映画の中の世界は絵空事と思っている人がいるなら、それは大きな誤解。「事実は小説よりも奇なり」と言うが、この世の中には不思議が溢れている。世の中に「努力できる人」と「努力できない人」がいるように、エリンは前者の貴重な資質を持った聡明(外見はがさつで下品)な女性だ。だからこそ、自分の周囲で起こっている事実を読み取り、状況を判断し、行動に移すことができたのである。
もし、ボーッとしてエリンがみつけたファイル(ランダムに捨ておかれていた)がそのまま倉庫入りしていたとしたら、水質汚染によって精神と身体を蝕まれた人々は浮かばれない。そして、エリン自身も。この話はこれまで社会のアウトサイダーだった彼女自身が成功によって社会に認知される貴重なプロセスだったのだから。

くよくよするな、私が一番!

エリンのように感情コントロールできない人間は、実際は善良な人間でも理解されることは難しい。やっと法律事務所の事務職を得ても、なかなか周囲の女性は友好的な態度をとってくれないし、食事も一緒にしてくれない。でも、平気、私は私! 職場にふさわしくない変な服装を指摘されても、「尻がたれないうちは似合う服を着るわ」と切り返し、超ミニに7センチヒールできめる。協調性がないといえばそれまでだが、服装も言葉使いも自分を知ったスタイルが一番いいのだから許容範囲(のはず)。職場は仕事をする場所、仕事以外の問題で気づかい疲れしないことをおススメする。

自分の魅力はフル活用すべし

エリンだってとんとん拍子に成功を勝ち取ったのではない。権力からの脅しにひるみ、ひいた方がいいと思ったこともある。しかし、「巨大さ」に恐れおののく前に目前の問題処理に集中。水質汚染データを入手するためにいつもより深く襟元をカットした服装で豊満な胸元をアピールし男を味方につける。オンナの敵だなんて僻むなかれ。人の出自は運命なのだから、金持ちに生まれた人はお金で勝負すればいいし、美貌を持った人は美貌を武器にすればよし(できればの話ですが)。いずれにしろ、自分の魅力をきちんと知ることが肝心(自分を知らないほど滑稽で、危なっかしいことはない)。

……こんな具合にエリンが教えてくれたことは少なくない。勿論、パートナーであるボスのエド(アルバート・フィニー)が問題児のエリンを温かく見守ってくれたことを忘れてはならないが。
人は一人では生きていけないのだから、自分が関わる人たちに感謝とリスペクトを、そして信頼と愛情をもってあたれば、望む成功は無理ではない。成功がなくても、貴重な財産となること間違いなし。事実の重みを感じさせる作品だ。

※ 「エリン・ブロコビッチ」(2000年5月27日公開)
エリン・ブロコビッチ : 作品情報 - 映画.com

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