私の本業である行政書士の業務として相続手続きがあります。この相続手続きはお客様から依頼を受け、亡くなったご家族の相続財産に関して名義変更をします。遺言書があればそれに従い、なければ残った相続人とで決める遺産分割によるものか、最終的には法定相続の割合で分割することになります。

よく、遺言書があれば相続人間の争いが起きないと言われますが、実際にはどんなケースにおいても争いは避けられません。例えばこの遺言書がある場合でも、その遺言書が本物なのか? 遺言書を書く能力があったのか(高齢による認知症などの疑義)? 遺言の形式が法的に満たされているのか? など、遺言の内容に不満を持つ相続人であれば、何かしら言いたくなるものです。遺言書の内容を認めてからも様々な疑いが続きます。それは特別受益の取り扱いについてです。

この特別受益とは遺産の相続にあたって、特定の相続人が被相続人の生前に贈与されたり、遺贈を受けたりすることで、各相続人の遺産額を計算するときは、すでに贈与された特別受益分をいったん遺産総額に組み入れてから、それぞれの相続分に応じて分割するかたちとなります。この特別受益に関してはその存在を示すことが難しく、被相続人(故人)が生前何かのかたちで記録として残しておくことが大きな手掛かりになることがあります。

この特別受益の存在を調べるにあたり、被相続人の父の手帳を見つけた方のお話をします。生前はもの静かで多くを語らなかったお父様でしたが、ずっと付けていたであろうポケット手帳のダイアリーに、ある相続人に対し詳細に送金先、送金金額などが記載されていました。この記録により特別受益の存在を隠していた相続人が不利になってきます。お父様が残した何気ない文字の記録が大きく役に立つことがあるのです。

さらにこの手帳からは様々な事実が判明します。それは感情をあまり出すことはなかった父親が、娘からの誕生プレゼントにその喜びを記載してあったり、家族で一緒に食事に行ったときの詳細な記録や丁寧な文字でびっしりと書かれた手帳が、徐々に空白が増え、文字も以前の面影もなくなってきたり、そして、数日後に死を迎えることになります。

この手帳を探しあてた娘さんは、相続に関して争いを防ぐ大きな発見をしたのと同時に、お父様からの素晴らしいプレゼントを受け取ることになりました。お父様が生前なぜこのような手帳を残したのかはわかりません。何気ない日々の出来事だとしても、残された家族にとっては大切なものになります。この手帳はお父様の自分史であるだけでなく、家族も参加している家族史です。そんな体裁にこだわった自分史は必要ありません。大学ノートでもカレンダーでも手帳でも、日付と出来事とそのときの気持ちを少しだけ書くことで、それはいつかご家族の大きな財産になるのです。

馬場敦(一般社団法人自分史活用推進協議会理事)