自分史活用アドバイザー 桑島まさき

2002年度の日本映画は時代劇が元気だった。岡本喜八の「助太刀屋助六」、三池崇史の「SABU」、熊井啓の「海は見ていた」、山田洋次の「たそがれ清兵衛」など。翌年の2003年1月には滝田洋二郎の「壬生義士伝」が公開されたが、私は公開前の前年にマスコミ試写で鑑賞していたため、2002年は自身の中で「時代劇ブーム」だったのである。
話題を集めた「たそがれ清兵衛」「壬生義士伝」には共通点が多い。藤沢周平、浅田次郎という売れっ子作家の原作の映画化、主人公が奥州の下級武士で善人かつ誠実であるということ、時代背景が幕末、生活が苦しくビンボーが映画のリアティーになっていること。
主人公を務めた真田広之、中井貴一共に同年代であり、「壬生……」のもう一人の主役である佐藤浩市もそうだ。そして、最大の共通点は”泣かせ系”時代劇であることだ。

両作がヒットした理由は、言うまでもなくこの”泣かせ”ツボを心得た山田洋次、滝田洋二郎というヒットメーカーによる作品が、日本人の情緒にしっくりきて興行成績を伸ばしたことは言うまでもない。もう一つの理由は、公開当時、日本経済は先の見えない不況で心が塞ぎがちだったが、ビンボーだが清く現状に満足して日々を過ごす主人公の心の豊かさやお金に還元することのできない家族愛が、作中に充満しているからだ。

「壬生……」の吉村貫一郎(中井貴一)は奥州南部藩の下級武士で給金は捨て置かれ、貧しさゆえに妻は口減らししようと入水まで試みた極貧の生活だ。吉村は家族の惨状をなんとかしようと新撰組に再就職した”出稼ぎ父ちゃん”である。
「たそがれ……」の井口清兵衛(真田広之)は給金だけでは一家を食べさせることはできず、定時に帰宅し内職に励む。同僚と外で一杯!なんて余裕はない。主人公たちは粗末な着物を着て月代も切っていない。それでも、それぞれ愛する家族を持ち、慈悲心を持つ一家は貧しさを恥とせず清廉潔白な人生を心掛けている。
リストラ、不景気、就職難というおめでたくない日本の当時の現状を反映している作品の背景に、観る者は、困難な時代に人はどう生きるべきかという人生の指針を思い、感動がヒットを生んだのではないだろうか。

劇場公開が後になった「壬生……」は「たそがれ……」に出遅れた感は確かに否めない。「たそがれ……」で感動の涙を流した人は「壬生……」がどんなに秀逸な作品であろうと「似ている」という印象を拭いきれない。しかも、惜しいことに、「壬生……」は泣かせのシーンがあまりに長すぎる。主人公一が瀕死の状態で親友の屋敷に来た時からそれは延々と続く。それでも私はこの作品にグッときた。

温厚で礼儀を重んじ、思慮深く律儀で実直、一流の剣士であるのに表にださず黙々と実務に励む主人公。とりわけ「壬生……」では新撰組という野心家に囲まれていたために無私無欲の吉村の個性が魅力的に映るのは当然だろう。人が人を殺し、剣の腕一本で出世ができお金を稼げた時代、自分の心配だけしていればよかった時代に、たえず人のためになることを率先してやった吉村という武士は好人物として涙を誘うのは無理もない。
人間関係の希薄な殺伐とした時代だからこそ、失われかけた(?)日本人の精神性(こころ)を参考にしたい。

*「たそがれ清兵衛」(2002年11月2日 日本公開)
たそがれ清兵衛 : 作品情報 – 映画.com
*「壬生義士伝」(2003年1月18日 日本公開)
壬生義士伝 : 作品情報 – 映画.com