自分史活用アドバイザー 桑島まさき

2002年は5/31~6/30、日韓共催FIFAワールドカップ大会が開催され、開催国となった日本国内は大盛り上がりだった。同年8月に日本公開された映画「フリーダ」は、ハリウッドで活躍するメキシコ人女優のサルマ・ハエックが主演・製作を手がけた作品で、遅かれ早かれ誰かの手で映画化される運命にあったといえる。14歳の時にフリーダ・カーロという女性画家を知ってからかなりの時間をかけてリサーチしたというハエックが、同じメキシコ人としてフリーダを演じたいという欲望にかられたのは当然だろう。フリーダ・カーロを語る時、最初に浮かぶ言葉は<意志>ではないだろうか。

20世紀前半、まだ学生だったフリーダは経済的に恵まれた家庭の中で、特に芸術に関心の高い父親の愛情を受けて溌剌とした生活を送っていた。お転婆でおませで、女学生に扮したハエックはイキイキと走りまわっている。そんなフリーダを突如、人生を大きく変えてしまうバスの事故による不運が襲う。生々しい事故のシーンはジュリー・ティモア監督の手によりスローかつ幻想的なタッチで描かれる。
脊椎をやられ全身をギブスで覆われたフリーダが再び地面に足をつけて歩ける日はこないと絶望視されても、ボーイフレンドが自分を見捨てヨーロッパに行くと告げにきても、「自分は歩けるようになるのよ!」と希望を捨てず気丈に答える。
失意の中、フリーダはギブスに絵を書き、遂には書くスペースがなくなるまでにしてしまう。諦めたり泣いたりグチをいったりする前に常に行動する女性だったようだ。

努力の甲斐あって歩けるようになるが、人生を終えるまで幾度も手術をし、ボロボロになった骨をつぎはぎし痛みに耐える人生を強いられたが、常に意志の力で克服している。フリーダ自身の口から苦痛の言葉が発せられない限りその痛みを感じることができないほどに、自分の人生を前向きに切り開いていく。メキシコを覆っていた革命の思想運動に参加し、同じ思想を持つ人々の集いに顔をだしてはテキーラを飲み、情熱的な音楽に身をまかせ、タンゴを踊り、生を謳歌している。与えられた人生は楽しく生きなくてはと言わんばかりに。
また、自分に絵画の素養があるかどうか既に画家として名声を得ていたディエゴ・リベラに直談判して弟子入りする行動力といい、フリーダには本当に<ポジティブ>という言葉がよく似合う。
自画像を書くことで有名だった彼女だが「猿をつれた自画像」を見るとわかるように、黒々とした逞しいゲジゲジ眉が左右連なっていて、勝気な性格を物語っている。
次にしっくりくるのは<情熱>という言葉だ。フリーダ・カーロは確かに20世紀初頭に注目されたメキシコ人画家だが、伴侶となるディエゴに弟子入りし深い仲となり結婚した後は、自らの創作活動は「趣味の延長」と公言している。つまり、偉大な画家である夫のアシスタントに徹していたのだ。彼女の結婚生活は、ディエゴという無類の女好きの男性をいかに寛容に許し持続させていくかにあった。世間一般の女性が男性を愛する際に抱える悩みや苦しみの共存したフツーの生活に徹していたのだ。芸術家としての生活ではなく。
浮気性のディエゴは見つかっても悪びれず、とにかく女にモテる。前妻が「彼は女の欠点にも美を見出す天才」と語っているが、ディエゴは女性崇拝者で女性の気持ちがよ~くわかる男性なのだ。だから女性たちはプレイボーイとわかりつつ魅力にまいってしまい固執するのだ。太鼓腹のオヤジなのに……。
フリーダは何度も裏切られながら、思想的かつ芸術的に共感できる夫であり同志であるディエゴを生涯のパートナーとしてとことん愛しぬく情熱家だ。

しかし、あまりにもひどい仕打ちが――。「私の人生での大事故は、バスと妹よ」と半狂乱で言うフリーダにとって、他の女性なら何人でも許す覚悟はあるが、最愛の妹と夫が愛し合うシーンを目撃してしまう……。愛する妻を傷つけてしまったディエゴは必死に許しを請うが今度ばかりは……。
身体的痛みと愛の痛みの連続。身も心も捧げ、裏切られて傷つき、折々の喜怒哀楽を絵画という手段で表現してきたのが、フリーダ・カーロという画家の芸術そのものなのだ。

しかしながら、壊疽した足を切断し病に伏したフリーダの元にディエゴは戻る。復縁して彼女を看取る浮気男はやはり、フリーダにとって必要不可欠な存在だったと言うべきだろう。ディエゴというパートナーとの生活がなかったら今日、私たちが目にするフリーダ・カーロの絵画は存在しなかったのだから。さらに言えばバスの事故に遭わなければ画家、フリーダ・カーロは誕生しなかったのだ。
この世の縁は必然という絶対的な力に導かれている……。47歳という短いフリーダの人生が物語性に富んでいることは、そのシュールな絵画の数々を見ただけでもよくわかる。

※「フリーダ」(2002年8月2日 日本公開)
フリーダ : 作品情報 – 映画.com