自分史活用アドバイザー 桑島まさき

優れた才能を持つ女性が企業や共同体や国の代表になっても何ら不思議はないが、それを阻む要因は、因習や伝統といったものだ。そして、それらはマチスモ思想が生み出した「リーダーになるのは男でなければいけない」という偏狭な意識であり差別である。優秀な女性たちは世界のあちこちでその類稀な能力を発揮しリーダーシップを発揮していることは確かだが。世界のヘゲモニーをとっていると自負しているアメリカではフェミニズム映画が量産され、強い女性が男性を負かす爽快な映画は数多くあるが、その一方でセクハラやDV被害の多い国であることも事実である。

2003年9月に日本公開された「クジラの島の少女」はニュージーランド映画。ニュージーランドのマオリ族。族長の家系に難産の末、生まれたパイケア(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)は双子として生を受けた女子だが、誕生とひきかえに双子の兄と母親はあっけなく死んでしまう。妻の死を嘆き悲しんだ父は族長になる意志はなく、また跡取り(男子)を残すことができなかったという負い目を感じ、島を出てドイツに住んでいる。よって、パイケアは祖父母の家で暮らしている。
自分が生まれたことで母は死に、男子誕生を願ったのに女子の自分が生き残ってしまったという現実は幼い少女を苦しめ、物心ついた頃からパイケアは「祝福されない誕生」と意識するようになる。可愛がってくれる祖父のコロは優しいが、族長の家系の長としての重責を担っている。物語はこの孫娘のパイケアと祖父との絆を軸に描かれていく。

マオリ族の現代の生活だが、上半身裸でヤリやオノをもって狩猟漁業の生活かというとそうではなく、都市部と何ら変わらない現代的な生活を送っている。風貌や体の一部の刺青のみが種族と判別がつく鍵だ。パイケアの父親が外国に移住しているように島は過疎化が進み、島の子ども達もマオリの伝統や儀式への関心は薄い。女性達も家では堂々と男とケンカしたりする。

しかし、根強く残っているのだ……。祖父のコロは島の子ども達にマオリの伝統を教え、自分の息子が継がなかったため後継者探しに必死だ。
12歳になる島の少年達を集め、部族の伝説や代々伝わる歌や戦いの技術などを教えている。さながら戦士養成学校のような緊張感に溢れている。目をカーッと見開き舌をだして敵を威嚇する猛々しい部族の秘伝。一対一で敵を倒すパワフルな技法など、何時の世にもどこの世界にでもあてはまる「伝統」を守り後世に伝える役目を、コロは背負っているのである。

パイケアは自分も参加したくて、訓練風景を盗み見し技を学ぼうと必死だ。ところが、訓練をうけている少年とマオリの伝統的な武術で勝負しているのを祖父に見つかってしまい、神聖な場所を、「女が入ることで汚した!」と激怒され皆の前で叱られてしまう。孫ではあるが、族長としての自意識からパイケアの存在を認めてくれないのだ。
夕飯の席でも祖父は孫の過失を許してくれず激昂し穏やかではない。そこへ祖母は言う。「外ではあんたがボスでもキッチンの中では私がボスよ!」と。
こんなにも女性がズケズケと意見を言うことはできる時代になったのに、伝統はまだ許さないのだ、「女」であるために……。

ところで、ニュージーランドの島には、新天地を求めて遥か遠くからクジラに乗ってやってきた勇者パイケアの伝説が語り継がれている。パイケアを先祖にもつマオリ族の「男」が代々族長たる資格をもち、島と共同体の秩序を守り、種族の繁栄と存続を守ってきたのだ。島の少年達ができないことを軽々とやってのけるパイケア。島を思う気持ちや神話を尊ぶ気持ちは人一倍あるのに、「女」であるという理由がそれを阻んでしまう。どうにもならない運命を悲しんでいた時、パイケアは呼んでしまう、遂に……。

浜に打ち上げられたクジラの一群。近くで見ると何とグロテスクな姿をしているのだろう。
実際、ニュージーランドはクジラが打ち上げられる国としても有名。海に戻さないと死んでしまうと島の人々は懸命に巨大な体を動かそうとするがビクともしない。もう打つ手はないのかと断念する人々が見たものは……。ああぁ~、なんと幻想的で詩的なシーンだろう。観ていない人のためにこの感動的なシーンの説明は省略するが、○○○の上に乗ってパイケアが夜の海をいくシーンの上からのショット、水中シーン。

ニュージーランドは豊かな山々に囲まれた細長い島だが、本作では、海が部族の命を生み繋いできたものとしてキーワードになっている。感動的な結末。伝承歌を歌うパイケアの荘厳な姿。才能ある者は選ばれて当然なのだ、性差を越えて。
ケイシャ・キャッスル=ヒューズは当時新人ながら本作で2004年度アメリカアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。監督はニュージーランド生まれの女性監督、ニキ・カーロ。

※ 「クジラの島の少女」(2003年9月13日公開)
クジラの島の少女 : 作品情報 – 映画.com